Girlish Maiden

□Y
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魔法省に到着した飛鳥は、闇祓いの会議に参加していた。
朝の会議は今後の対策や情報交換を兼ねたもので、常に忙しい闇祓い達にとって唯一ゆっくり座っていられる時間だった。

とはいえ、会議中に何かあれば文字通り飛んでいかなければならないのだが、朝ということもあってかそれは少なかった。

「トータルすると今週既にガス漏れ五件、突風または竜巻が十二件、持病もないのに突然倒れた人や宙に浮いた人、動物の鳴き声を発する人、腕が植物に変わった人が計六十ニ件。どんどん増えています」

目の下に隈を作った議長がげっそりした顔で言う。昨夜から明け方までずっと駆り出されていたらしく、寝ていないそうである。

「由々しき事態ですね。犯人が捕まったのは何件ですか?」
「……三件です。何件かは同一犯と見ています」
「そうですか」

飛鳥は頷き、それぞれの事件が記された紙をパラパラめくった。

「まぁ、“姿くらまし”は厄介ですからね。無効化する呪文もありますが、腕が立つようになったら“姿くらまし”に割り込めるようになりましょう。呪文かけてる間に逃げられては意味がありませんからね」
「……待ってください東雲さん。ばらけませんか、それ」

全員の顔が引き攣った。
ばらけるとは、“姿あらわし”や“姿くらまし”を失敗した時に起こる現象である。身体の一部がその場に残されたり怪我を負ったりするため、“姿あらわし”“姿くらまし”が難しい術であると言われる所以だ。

「まあ、ばらけることもあるかもしれませんね。付き添い姿あらわしは使い手の技術が全てですから。無効化呪文と割り込みの両方ができるようになることがベストです。一人が呪文、一人が割り込みをすれば互いを補えるでしょう?」

飛鳥はしれっと言ってのけたが、彼らにしてみればとんでもないことだった。

イギリスでは闇祓いでない魔法使い達も気軽にやっていたのだが、と対する飛鳥は少しカルチャーショックを受けていた。

「……どこでもやってると思っとったんですけど」
「やりませんよそんな危険なこと!物騒な国だな!」
「それは否定できませんねぇ。追い追い、全員できるようになって貰いますけど」

にこやかに言い放った飛鳥に、全員が黙り込んだ。
彼らはこの一週間で、彼女の指導がいかに厳しいものかを身をもって知ってしまった。

まず初日、開口一番に言った言葉が「私はスパルタです。よろしく」だった。しかしいくら指導が追いついていないとはいえ、彼らは闇祓いだ。元々優秀な人材が揃っている上に必要最低限の訓練は受けているので、まあ付いていけるだろうと見ていた。

それがあまりにも甘い考えだったと、今なら分かる。
少女のような外見のメンターは、一切の容赦も慈悲も無駄もなかった。誰よりも速く動き、誰よりも早く杖を振るった。それと同時進行で指導もこなし、終われば別の場所へ転々と移っていった。

「ところで、指名手配犯の顔は全員覚えてます?」
「全員かどうかは……」
「三日以内に完璧に覚えて下さい。……今のところ悪戯みたいな事件で終わってますが、これが過激になればどうなるか。事件に追われて事務的に日々を過ごすのではなく、ちょっとしたものでも気付いたことがあれば全員に共有すること。いいですね?」
「は、はい」

メモを取る音が響く。静まるまでの数秒間、飛鳥は事件録を見下ろし考え込んだ。
何かが水面下で起きているような、嫌な予感がしてならなかった。
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