Girlish Maiden

□X
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……───。


「………………お邪魔しまーす……」

ポアロ襲撃事件(飛鳥命名)の後魔法省へ寄り、魔法法執行部の上層部からの嫌味を受け流しながら事件の報告をした、そのまたあと。
飛鳥は疲れた身体を引きずり、再び零の家へと戻ってきていた。……なぜかと言えば、記憶を修正された子供達が寝ている間に「絶対来い」と命令口調で迫られたのである。

零は既に帰宅し、テーブルで飛鳥を待ち構えていた。そして飛鳥が椅子に座るや否や、零は即座に口を開いた。

「東雲飛鳥」
「うん」
「本名か?」
「戸籍なら探してもあらへんよ、零くん。うちの育った世界にマグル社会のルールは関係ないからねぇ」

飛鳥は一を聞いて十を察する。相手が何を聞きたいのか正確に察し、言葉を返す。
零に隠していることはまだある。飛鳥はそれを全て明かす気は、なかった。

喫茶店で記憶修正を行う時、飛鳥は零に選択肢を提示した。

“──選んで。ここでうちの記憶ごと消すか、今見たことも含めて全て残すか”

零は迷わず、後者を選んだ。

「……話せへんこともまだようさんある。ほんまに、ええの?」
「俺も飛鳥に話せないことがある。一緒だろ」
「……それはそうかもしれへんけど」

飛鳥はまだ渋っていた。
この選択は提示した彼女自身が一番迷うものだった。巻き込まずに守ることを信念とし、実行してきたからこその悩みだ。

「話せない、話したくないのなら言わなくていい。だが、存在ごと消していなくなるのはやめてくれ」
「………分かった」

零の強い言葉に、飛鳥はようやく首を縦に振った。まだ迷いはあるものの、今は呑み込むことに決めた。

「しばらくは日本にいるんだろ?」
「……うん」
「家は?」
「寝泊まりは所属してる組織の支部でしとるけど……」
「料理は?」
「………………」

飛鳥は押し黙った。
零の目が鋭く光り、ぎろりと飛鳥を睨んだ。

「ここに住め」
「いやうち仕事が……」
「24時間も仕事するのか?」
「しません……」
「料理はしないのかできないのかどっちだ?」
「できないです……」

ボソボソ気まずそうに答える声に覇気がない。ポアロであっという間に男を制圧した時と同一人物とは思えないほどだ。

「零くんも忙しいんに。うちのことまで構う暇、あらへんとちゃうの?」
「そんな顔色でうろつかれたら気になるに決まってるだろう。せめて元気になるまではここにいろ」

そう言われては、飛鳥に言い返す術はない。
零の中では既に決定事項のようであることもあり、彼女は大人しく従うことにした。

「飛鳥、携帯は持ってるのか?」
「買おうと思ってはいるんやけど、忙しくてなかなか。……携帯って種類があるんよね?何がいいとかある?」
「そこからか」

零が目を瞠る。一年のほとんどを魔法界で過ごす飛鳥にとって、マグルの作るものは既に未知の領域だった。

「魔法界におると機械類に疎くなってしもうて……。当たり前やけど一昔前とは随分違うんやね」
「一昔前までは、マグルのところにいたのか?」
「親戚の家におったんよ。魔法界とは何の関係もない人達やった」

零が瞬く。聞かれる前に、飛鳥は少し微笑んで先に答えた。

「十年前に、事故で亡くなってしもてね。家はまだあるけど、ほとんど使ってないんよ」
「……悪い」
「ううん。あれがなかったら、今うちはここにおらへんよ。嫌なことはあったけど、ちゃんと良いこともあったから」

まだ、話せることは少ないけれど。ヒントを言葉の端に散りばめながら、飛鳥は真実を隠す。
零なら気付いてくれると、信じているから。

「飛鳥」
「なに?」
「お前は、死ぬなよ」

飛鳥は零を見つめ、眉を下げた。
言葉に篭められた思いと意味を推し量り、悲しくなる。
詳細は知らずとも彼の仕事が何なのかは知っている。失ってばかりなのだろうとも。
似た者同士なのだと分かっているから。返事はせず、飛鳥も同じことを言うのだ。

「うちより先に死んだらあかんよ、零くん」
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