Girlish Maiden

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日本魔法省内では、飛鳥の評価はきれいに二分していた。
具体的には“陰陽師出身の女なんて信じられるか”と言う人々と、“陰陽師歴が短いなら問題ない”と言う人々に分かれた。
とはいえ前者の方が多く、後者は少数派だが、完全に疎外されている環境ではないことに飛鳥は驚くと同時に安心した。

大臣が徐々に陰陽師との和解を進めているのもあるのだろう。決して多くはなかったが、昔よりも遥かに増えていた。

「大体よ、互いに悪いんだからもう許し合えばいいんだよな。頭固すぎ。歩み寄り大事」
「想像だけど、陰陽師側にもそう思ってる人はいると思う。東雲さんだって家が嫌で飛び出したんでしょう?」
「いや、ありえない。手を組むとか無理。あいつらに何されてきたか考えるだけでもおぞましいね。俺は無理だわ」
「陰陽師側が送り込んできたスパイの可能性も捨てきれないだろ。情報だってどこまで信じていいものか……」

そんな声が各所で上がっていた。
飛鳥寄りの考えを持つのは闇祓いや若手に多く、逆は年配に多い。
そんなわけで、魔法省内部へ踏み込んだ飛鳥は好奇の眼差しに晒されることとなった。

ヴォルデモート卿復活の話は上層部と闇祓いしか知らされていないらしく、まだ様子見の段階であることが伺えた。

では何故、飛鳥の存在がここまで広まっているのか。それは、上層部が“東雲飛鳥をメンターとして闇祓い局に据える”との判断を下したからだった。
闇祓いの人手が足りていないことと、イギリスほど質が高くないことが表向きの理由だ。もちろんそれは問題視されていたため、適材適所に収まったということだろう。だが、省の真の目的は飛鳥の監視だ。
要はどこかへフラフラ行かれても困るので、とりあえず闇祓いに突っ込んでおいて飼っておけば一石二鳥──という具合である。

もちろんこの提案は安生大臣がしたもので、他に名案は持ち合わせていなかった反対派をこれで黙らせた。

「イギリスは過激な奴らが多いんですよね?やっぱりそういう場所じゃないと、腕は上がらないんじゃないですか?」
「せやねぇ。イギリスは闇祓いになるまでがまず厳しいんよ。それから実戦に投入されるから基礎がしっかりしとったね。実戦経験も大事やけど、訓練で地盤を固めることがまず第一。……まぁ、そんな時間はあんまりないみたいやけど」
「え、じゃあ現場指導ですか」
「全部そうならんとは思うけどね」

飛鳥は、今年闇祓いになったばかりだという青年と話をしていた。構造をまだわかっていない飛鳥に案内を申し出てくれたのだ。

日本魔法省は昨年度から犯罪が増えたことで前年よりも闇祓いの数を増やしたが、指導が追いつかず中途半端な状態になっているという。質を数で補うことができる水準まで達していないのだ。
もちろん優秀な人材を魔術学校からスカウトしたり他から引き抜いたりと腕は良いのだが、いかんせん経験が少なすぎた。
急増する犯罪数による激務で辞めていく人もいたため、再び人手不足に陥っている状況である。
訓練を受けていない状態で現場に行ったところで足でまといになる。足でまといが複数いればどうなるか──被害がさらに広がるだけだ。

「着きました。ここが魔法法執行部です」
「おおきに。明日からよろしゅうね」
「はい!あ、気をつけてくださいね。執行部は反対派が多いので……」
「あら、そうなん。何言われるんやろねぇ」

闇祓い局は魔法法執行部に所属している。
今回の事件についての見解と対策をしてくれという“お願い”をされたのだが、真意は別だろう。

青年と別れた飛鳥は扉を見据える。
そして意を決し、ノックをしたのだった。
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