Girlish Maiden
□V
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なんとか喫茶店の前まで来ることができた飛鳥は、ちょうどそこに数人の小学生が集まっていることに気付いた。
よく見るとこの前出会った子供たちだ。沖矢昴はいないのかと一瞬警戒し、いないことを確認すると飛鳥は彼らに声をかけた。
「こんにちは」
「あ!」
「この前会ったねーちゃん!」
「お久しぶりですね!」
他の三人が口々に喋る。だが、眼鏡の少年──江戸川コナンだけが注意深くその目を細めたのを、飛鳥は見逃さなかった。
「今日はもう一人の子はおらんの?」
「灰原さんは宅急便がくるからって言って帰りました!」
「あら、そうなん。いつも五人で遊んではるん?」
尋ねると、コナンを除く三人は誇らしそうに胸を張った。
「そうです!」
「俺たち!」
「少年探偵団なんだから!」
目をキラキラさせ、三人が飛鳥を見上げる。飛鳥はぱちぱち拍手をしながら首を傾げた。
「少年探偵団?」
「オメーら、いつまでもここにいたら邪魔になるぞ」
店の扉が開いたのを見て、コナンが言った。
小学一年生にしては随分しっかりしている子だ。飛鳥は感心した。
「飛鳥さん、ポアロに用があったんじゃないの?」
「まぁ、うん。そうやけど」
「おや、飛鳥さん」
取ってつけたような“さん”に、飛鳥はぎくりと肩を揺らした。
まだ心の準備が出来ていない。入るのを渋っていたというのに、向こうからやってきてしまった。
「……えーと」
コナンの表情がさらに固くなるのを横目に、飛鳥は零を見た。
彼のことをどう呼べばいいのか分からず、迷う。
零は飛鳥を名前で呼んだが、それは苗字を知らないからだ。“安室透”がどのような人物なのかは知らないが、店員を下の名前で呼ぶのは不自然だと思った。
「安室さん」
違和感しかない呼び方に、ぎこちなさを隠すように口角を上げる。開けた扉を抑えながら、彼は少年たちに話しかけた。
「君たちも寄っていくかい?」
「うん!」
「僕たち、この前のお礼をしに来たんです」
三人が躊躇いなく店に入る。その後をコナンが続き、飛鳥もそれを追った。
「ただの店員と客でよろしく」
「了解」
ほとんど唇を動かさず、小声での会話。
席へ案内されながら、飛鳥は前を歩くコナンを観察した。
見た目はただの子供なのに──、たまに見せる鋭い眼光と大人びた表情に引っかかる。飛鳥と零を警戒しているようだが、その警戒する様も子供に見えない。
(……うーん……?)
飛鳥は深く考えようとして、やめた。情報が少ないうちから憶測を立てても外れることが多い。彼が何か動きを見せた時に対応していけばいいだろう。
少年達と同じテーブルに案内され、席につく。
「安室さん、これお母さん達から渡しなさいって言われたの」
「あの時はありがとうございました!」
「格好良かったよな!」
零は紙袋を渡されている。話が読めない飛鳥は沈黙を守った。
「当然のことをしただけだよ。お気遣いありがとうございますって伝えておいてくれるかい?」
「うん!」
話の区切りが見えたところで、飛鳥はメニューを子供たちに差し出した。
「好きなもの選び。うちが払うから、気にせず食べてええよ」
「ほんとか!?」
「食べすぎたら親御さんに怒られるから、程々にね」