Girlish Maiden

□V
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ゆるやかな意識の浮上と共に、飛鳥は目を覚ました。重い瞼を開けば、見知らぬ天井が見下ろしている。

「…………。……?………………!!!」

しばらく首を傾げ、記憶を掘り起こした彼女はあまりの羞恥に頭を抱えた。
──できることなら今すぐ悲鳴を上げて穴を掘って埋まりたい。引き攣る口元と眉間の皺を指先でぐりぐり解し、大きく溜め息を吐いた。

ベッドサイドにある時計を見ると、10時を指していた。
起き上がり、部屋を見渡す。

ものが少ない部屋だった。少し埃っぽく、あまり使われていないことが分かる。

彼はもう出かけてしまったらしい。隣の部屋からは気配も物音もなかった。
飛鳥は立ち上がり、時計の横に置いてあった杖を手に取った。
トヨからは治るまでは魔法や術を使うなと言われている。まだ本調子ではないが、軽い魔法くらいならばいいだろうと飛鳥は勝手に判断した。

「スコージファイ」

瞬く間に部屋の空気が清浄になる。
カーテンも開けるかどうか迷い、飛鳥は閉めたままにすることにした。家主がいつ帰るのか分からない上に、勝手に家具を弄るのは気が引けたのである。

部屋を出てリビングへ行くと、机の上に何かが置かれていた。
昨日飛鳥が着ていた服と家の鍵らしきもの、そして零からの書き置きだった。

飛鳥の体調を気遣う文から始まり、“安室透”という名前で喫茶店ポアロでアルバイトをしていること、ポアロの場所、降谷零としての連絡先が書かれていた。

「……時間が無くて朝食は作れなかった、良かったらポアロに来て食べていかないか、ね」

零は記憶がないので忘れているが、飛鳥はポアロの場所を知っている。そのことにまた罪悪感を持ちながら、飛鳥はきれいに畳まれている服を取った。

「……ぜんぶ、読まれとったねぇ」

乾いた笑いが込み上げる。借りていた服を脱ぎ、着替えた。零の服も魔法で清めると、飛鳥は書き置きを持って家を出た。

鍵をかけてポストに放り込み、周りを見る。
昨日ここまで辿り着いた時の記憶が少し曖昧で、正確に道を覚えていないのであった。
だが、なんとなくの方角は頭の片隅に残っている。

ゆっくりとした足取りで、飛鳥は歩き出した。少し、右側を引きずるようにして。
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