Girlish Maiden

□T
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ピンポーン、と夜中には不釣り合いな音が鳴った。
外から聞こえてくる雨の音以外は静寂が漂っていただけの空間に、一筋の緊張が走る。

この場所は限られた人間しか知らず、訪ねてくる者はさらに少ない。誰かが来る時は、必ず連絡が入ることになっている。
咄嗟に携帯を確認したが、そんなものはひとつも入っていなかった。
警戒が最大値まで昇る。拳銃を後ろ手に握りながら、降谷零は扉に背中をぴったりはりつけてドアノブを下げた。

「………………」

足が見えた。
女物の黒いパンプスからストッキングに包まれた足が伸びている。顔を見ようと目線を上げた時、零はそれが誰なのかはっと気が付いた。

俯き、長い黒髪に隠れて顔は見えないけれど。

彼は確かに、彼女だと認識した。

「飛鳥……?」

平均よりも低い身長。華奢な肩は今にも折れてしまいそうなほど細い。
なぜここに、という疑問は一瞬で消し飛んだ。

服から髪先から垂れた指先から、ポタポタと雫が絶え間なく落ちていた。
雨はそれほど強くもないが、小雨と言えるほど弱くもないものだった。地面に水溜まりができるほど外にいたのだと即座に分かってしまった。

何も言わない飛鳥の手首を掴み、玄関に引っ張り込んだ。
ドアを閉め、握りしめたままだった拳銃を尻ポケットに突っ込む。冷えきった飛鳥の腕は氷のように強ばっていた。

「飛鳥、とりあえずシャワーを──」
「…………零、くん……」
「話は後だ。今は何も聞かないから、落ち着いたら話してくれ」

掠れた、小さな飛鳥の言葉を遮った。
空っぽで虚ろな、何もかも見失ってしまったような。行くあてを探して、彷徨って、ここまで辿り着いてしまった。そんな気がして。

抜け殻のような彼女の背を押し、廊下に上がらせる。飛鳥はふらつきながらも促されるまま靴を脱ぎ、脱衣所に押し込まれた。

「タオルはこの棚、着替えは貸すから。下着はコンビニで買ってくるよ」

有無を言わさず、飛鳥の返事も待たずに零は脱衣所のドアを閉めた。
しばらくして衣擦れの音がした後、飛鳥が風呂場に入る気配がした。シャワーから出る水音まで聞いたところで、零はリビングへ引き返した。

財布と鍵を持ち、拳銃を鍵付きの戸棚に入れて隠す。そうして玄関に向かい、傘を手に外へと出ていった。
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