Girlish Maiden

□Y
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ごめんなさいと謝る声がした。
その声はとても小さくて、誰にも聞こえない。聞こえてはいけない声だった。
嬉しいことがあった日も。辛いことがあった日も。怒りを感じた日も。
その謝罪の言葉は、いつもどこかで微かにあった。

騙してごめんなさい。裏切ってごめんなさい。隠れてごめんなさい。誤魔化してごめんなさい。
──あなたから記憶を奪って、ごめんなさい。

心の中で、謝ってばかりの人生だ。
誰にも届きはしないというのに、飛鳥は呟き続ける。

「…………飛鳥」

ああ、誰かが呼んでいる。
哀しい声だ。傷ついて、痛いと言っている声だ。
それはきっと、飛鳥のせい。
また何かを間違えた。また同じことを繰り返した。

裏切ってばかりの、人生だから。

「飛鳥」

意識が浮上する。
目を開き、飛鳥はぱちりと一度瞬いた。
眉間に皺を寄せ、覗き込んでくる顔を見て彼女はあれ、と首を傾げた。
いつ寝たのか、記憶がない。

「……ジョージ?」

左手がやけに温い。視線を遣ると、ジョージがしっかりと飛鳥の手を握っていた。
出した声は掠れていて、まるで久しぶりに喉を使ったかのようだった。

「倒れたんだよ。半日以上、意識がなかった。いまダンブルドアが癒者を呼びに行ってる」
「……倒れた?」

飛鳥は瞠目した。
そして、右手を動かそうとして、ぎょっとした。
ぴくりとも動かない。
電池の切れた機械か、糸のない操り人形のようだ。

手だけでなく、右半身が硬直していた。
嫌な汗が背中を伝った。
ジョージの青ざめた頬が、余計に不安を煽った。

階下から足音が響いた。誰かが上ってくる音だ。
ドアが大きく開かれ、ダンブルドアが姿を現した。

「ミスター・ウィーズリー。すまんが退出してくれんか」

ダンブルドアが言った。
ジョージが立ち上がり、飛鳥の手を離した。

「……飛鳥」

何か言いたそうにまた名を呼び、彼はすぐに口を噤んだ。背を向けて部屋を出ていく。
ジョージが姿を消すと、ダンブルドアの背後にいた人物が進み出た。

「久しいの、飛鳥」
「─────」

その人を見て、飛鳥は目を見開いた。
年老いた老婆だった。
白髪をひとまとめにし、後頭部で結っている。格好は着物。話す言葉も顔立ちも、日本人のそれ。

「せ、先生……」
「ほ。その呼び方は間違ってはおらんが、今の儂は癒者じゃ。──こんな形で再会したくはなかったがの」

老婆の目がキラリと光る。
鋭い眼光に、飛鳥は先程とは別の冷や汗をかいた。

「詳細はダンブルドアから聞いたぞえ。死の呪いを式に身代わりさせて逸らしたじゃと?前代未聞じゃわ、この馬鹿もんが」

怒鳴ってはいないのに、その声はビリビリ響いた。
飛鳥の枕元に寄り、老婆はおもむろに布団を剥いだ。

「半身不随か。死の呪いの影響もあるが、さらにそれを助長させた原因があるはずじゃ。何をした?」
「あの……、ここと日本支部の守りを……」
「即刻解除せぇ。死ぬぞ」

飛鳥の身体を触りながら、老婆が冷たく言った。

「無茶言わんで下さい……」
「無茶をしとるのはどっちじゃ!良いか、今後一切陰陽術を使うてはならん。──ダンブルドア、こやつはもう使い物にならん。回路がぐちゃぐちゃになっておる。これ以上酷使すれば数日後には寝たきりじゃ。すぐポックリ死ぬじゃろう」

途中から、老婆は英語を話していた。
飛鳥は反論しようとして口を開き、その口に何かを突っ込まれてむせ込んだ。

「ぅぐっ……!」
「口ごたえする暇があったらここの護りを解除することじゃ」

老婆が大きなガラス瓶を持ち、飛鳥に押し付けていた。そのまま傾けて中身を少し飲ませると、蓋を閉めてテーブルにそれを置いた。
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