Girlish Maiden

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彼女のやつれて青白い顔は、最後に見た時よりも疲れて見えた。元から細い身体はさらに痩せ、時折苦しそうな咳をした。
具合が悪いことは誰の目にも明らかなほど。
それでも彼女は、淡々と話し始めていた。

「私の名前はアスカ・シノノメ。陰陽師の家系出身のホグワーツ卒業生。実年齢は27。卒業後は数年間魔法省で闇祓いをしていたわ。今は不死鳥の騎士団でダンブルドアの指示の元で動いている団員よ」

学生達は呆気に取られて口を開けていた。
ただ一人、ハーマイオニーだけが平然とそれを聞いていた。

「闇祓い……?」
「私の先輩に当たるのよ、アスカは。童顔だから分からなかったでしょ?」

トンクスが軽快に笑って言った。ビルも弟達に飛鳥を示しながら説明を加えた。

「彼女はグリフィンドール寮で僕の三つ上の先輩でもあったんだ。成績優秀、品行方正で5年生からは監督生も務めてた。誰にも親切だったし、美人だから人気者だったよ。僕も随分お世話になった」
「過剰な評価だわ。言い過ぎよ」
「当時から誰とも付き合わない高嶺の花だったけど」
「ビル」

飛鳥が横目でビルを睨んだ。余計なことは言わなくていいと言わんばかりの目線だった。

「……私はダンブルドアの命令で、ホグワーツにもう一度入学したわ。授業も試験も全部受けた。普通の平均的な点数を取るようにしながら」
「なんの……ために?」

ジョージが掠れた声を出した。やっとのことで反応したような声だった。
飛鳥は双子の方を見ようとしなかった。

「ハリー・ポッターの警護のため。ダンブルドアよりも近く、遠すぎない距離から守るために。成長を妨げない程度に、命の危険から助けること」
「アスカは守護者に最適な人物だった。少しの怪我ならすぐ治せるし、怪しいものにはすぐ反応できるように特殊な術式を組んでいる。フレッドとジョージは気付いていたようだね。彼女には悪戯が一度も成功したことがないって」

ビルの言葉にフレッドは頷いたが、ジョージは強ばった顔のまま動かなかった。
ハリーも、席についた時のまま止まっていた。

「……ずっとあなた達を騙していたこと、本当にごめんなさい。ハリーも、気分が良いものではないわよね。嫌な夏休みだったことでしょう」

膝の上で手を握りしめ、飛鳥は言い切った。
夕食がテーブルに次々運ばれる中、そこだけはしんと静まり返っていた。

「何で、助けてくれなかった?」

怒りを孕んだ声だった。
飛鳥が顔を上げ、ハリーを見た。

「クィレル。リドルの日記、ペティグリュー。闇祓いなら全部見抜いてたはずだ!クィレルを事前に押さえていたら、ヴォルデモートを倒せた。リドルの日記がなければ秘密の部屋が開くことはなかった。ペティグリューさえ捕まえていればヴォルデモートは復活しなかったし、シリウスはこそこそ隠れる必要もなかったんだ!」
「─────」

飛鳥が言葉に詰まった。
それらは全て、彼女がしたくてもできなかったことだった。

「あなたには経験が必要だった。……ダンブルドアの方針よ。あの人は私に手出しすることを禁止した。大人が子供の成長を妨げてはいけないって、そう言ったわ」
「──その経験とやらのために、セドリックは犠牲になったのか!?」

部屋全体が静まり返った。
ハリーは立ち上がり、飛鳥を睨みつけていた。
それに対し、飛鳥は一切の感情を消した目でハリーを見つめ返していた。暗い底なし沼の漆黒が、どろりと音を立てて渦巻いた。

「私は何からも守ってくれる母親じゃないわ。あなたの手が届かなかったことまで、私のせいにするのはお門違いというものよ。……セドリックはあの日死ぬはずだった。勝手な判断でその天命を覆してしまった報いを、私は受けているのだから」

ゴホ、と飛鳥は咳を漏らす。

冷静、冷徹、冷然。冷たいという言葉が似合うほど、飛鳥の目は凍え切っていた。
おっとり笑う少女はどこにもいない。そこにいるのは、厳しい大人の女だった。
見た目は全く変わらない。顔も一緒だ。人は表情だけでこれほど変わってしまうものだっただろうか。
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