Girlish Maiden
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「やあ、アスカ。おかえり」
「ただいま、ビル。リーマス」
「ああ、おかえり」
煤をはらい、飛鳥は暖炉から出た。
テーブルで何か相談していたビルとルーピンが顔を上げ、飛鳥に手を振った。
「支部が完成したらしいね。秘密の守人は誰が?」
飛鳥は椅子を引いてルーピンの横に座った。
大量の書類と資料が重かったのである。
「私よ。ダンブルドアにばかり任せていたら偏るでしょう?」
「アスカなら適任だな」
「生きてるかくれん防止器みたいなものだからね」
「なに、その変なあだ名」
「フレッドとジョージが言っていたんだよ。『悪戯を仕掛けようとしても絶対に避けられるから、アスカはかくれん防止器で出来てるに違いない!』って」
ビルの説明に、飛鳥は肩をすくめた。
彼らの悪戯を察知していた方法はそれと似たようなものなので間違ってはいない。相変わらず勘の鋭い双子だ。
「アスカ、顔色が悪いようだね」
ルーピンが指摘した。
ビルも同じことを思っていたのか深く頷き、同意を示した。
「……そんなに分かる?」
「ああ。唇まで真っ青だ」
「そこまで酷い自覚は、な、」
言葉の途中で数度咳き込み、飛鳥は顔をしかめた。身体が軋むような、肺の中の空気が搾り取られていくような感覚が残った。
「書類は私が責任を持って預かっておくよ。ビル、ここはいいから部屋までアスカに付き添ってあげてくれ」
ビルは頷き、立ち上がって飛鳥に手を差し伸べた。
「行こう。休まないと」
その手に支えられながら、飛鳥はなんとか席を立った。
自分でも驚くほどに体調が急に変化していた。イギリスに帰ってきたことで気が緩んだからだろうか。
身長差がかなりあるため、ビルは膝をついて飛鳥を抱えるようにし、そのまま部屋に姿くらましした。
「力を使い過ぎなんじゃないのかい?」
「……悪いわね、毎回」
ベッドに寝かされ、足から靴を抜き取られる。下の兄弟が多いせいか、それとも二回目で慣れてしまったのか、ビルの手際は良かった。
「あなたがいてくれて助かったわ」
「それは僕の台詞だよ。あなたに何度助けられたか」
布団に潜り込み、飛鳥は首を傾げた。
「……私、何かしたかしら?」
「学生時代にね。……昔話は今度にしよう。休息が必要だよ」
咳を漏らす飛鳥に、ビルは心配に眉を寄せた。
それから約1時間後。
騎士団に警備されていたはずのハリー・ポッターが守護霊の呪文を行使し、魔法省から退学の通告を受けることとなる。