Girlish Maiden

□W
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日本支部を作る上で、様々な守護の呪文をかける必要があった。
家を購入してから半日がかりでそれを終わらせたあとは本部の持ち主であるシリウスが日本支部と本部を繋いだ。
最後に飛鳥が秘密の守り人となり、関係者以外は誰の目にも触れられない場所が完成した。

「……なんだかすごく疲れたわ」
「大丈夫、アスカ?」

家の中心──大黒柱に呪符を貼り付けたせいか、飛鳥はどんどん力が抜けていくのを感じ取っていた。目頭とこめかみを押し、霞む視界を元に戻そうと瞬いた。

「あなたこそ働きすぎなんじゃない?」
「闇祓いの方が忙しいに決まってるわよ。あれに比べれば私がやってることはちょっと忙しい休暇よ」
「例えが変よ、あなた疲れてるのよ」
「……そうみたいね」

額に手をあて、飛鳥は俯いた。
本部に結界を張った時はここまで負荷はかからなかった。ということは、二つまでが限界ということだろう。

「……ちょっと、危ないかもしれへんねぇ……」

これは長期にわたる任務だ。いつ終わるかも分からない、まだほとんど見通しも立っていない。手探りの状態で既に限界ぎりぎりではいざという時に動けないだろう。
それだけは、避けたかった。

「ダンブルドアと相談せなあかんね……」

本部直通の暖炉を見て、ぽつりと呟く。
乾いた咳がひとつ、口から零れた。
息を吐き、飛鳥はトンクスを見上げた。

「ハリーはいつ来るんだったかしら?」
「三日後よ。アスカは参加しないんだったわね」
「私は留守番組よ。……三日後ね。覚悟しておくわ……」

いま本部にはウィーズリー家とハーマイオニーがいる。行けば学生達に質問攻めされるのは分かっているので、飛鳥は夜中を選んで移動することに決めていた。
いま東京は夕方だが、時差の関係でイギリスはまだ朝である。
時間はたっぷりあるが、休む暇はなかった。主立って日本魔法省と連絡を取っているのは飛鳥なので、書類にサインをしたり書類を作ったりしなければならない。

ちなみに本部と支部を繋ぐ煙突ネットワークをこっそりつけてくれたのも日本魔法省である。イギリスの魔法省からネットワークを隠すために複雑な呪文をかけたらしく、「世界中の誰も介入できない」と豪語していたほどだった。

「アスカ、少し寝た方がいい。効率も落ちる」
「寝る場所が床か椅子しかないじゃない。……家からソファでも持ってこようかしら」
「何をそんなに逃げ回ってるんだ?普通に話せばいいじゃないか」

飛鳥は上半身を前に倒し、テーブルに頬をつけてシリウスを見上げた。

「ハリーに最初に話さないと。それまでは誰にも言わないわ。……4年も騙していたんだから」
「それを言うなら、同級生は6年じゃないか。そんなに気にすることかい?」
「それはそうだけど。監視するために4年も同じ寮にいました、って方が酷いでしょう」
「監視が目的じゃないだろう?ハリーも分かっているさ」

飛鳥は視線を落とし、テーブルの木目を見た。誰かがどこかから持ってきたもので、椅子も数合わせだけのそれぞれ種類の違うものだった。

「……何も言わずに終えられたら良かったのに。あんな歳で、こんなことになってしまうなんて」

トンクスが飛鳥を心配そうに見ながら暖炉に向かう。キングズリーは魔法省の仕事があると言って一足先に本部へ戻っていた。
感傷的になってしまっていることに気付き、飛鳥は体を起こして頭を振った。
嘆いても仕方ない。これが現実なのだ。受け入れて前を向かなければ、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。

「……ごめんなさい、暗いことを言ったわ。あなたの言う通り、戻って休むことにする」

ゆっくり立ち上がり、飛鳥はトンクスの消えた暖炉に向かった。杖を振って書類を集めると、それを抱えてシリウスに先に行くよう促した。

「ではお先に」
「ええ」

シリウスが消えた後、飛鳥も靴を履いて青色に変わった炎の中に入った。

「本部へ」

短く行き先を言い、飛鳥は日本を離れて本部へと向かったのだった。
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