Girlish Maiden

□U
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「ああ、買い出しに行こうと思っていまして」
「お料理されるんですか?すごいですね」

飛鳥は素直に感想を述べた。
自分で墓穴を掘っておいて何だが、腹の探り合いではなくこういった世間話をしたいものだ。

「東雲さんは、料理は?」
「からっきしです。面倒くさいので……」

他愛ない話をしながら、二人は住宅街を歩いていた。
沖矢が「この辺りには詳しくないでしょう」と言って、飛鳥に案内を申し出たのである。
少々怪しい人間だと思われているらしく、動向の監視も兼ねているのだろう。身上を追及する言葉はなくなったものの、探るような目は変わらない。

(……なんやの、この人……)

先程の問答は、理詰めのチェスで逃げ場を塞がれたような感覚だった。相当の頭の回転と経験がないとできない芸当だ。
こんな人物が、ただの大学院生であるはずがない。本業がほかにあるはずだ。

「そういえば、どうして工藤邸に?」
「住んでいたアパートが焼けてしまいまして……。困っていたら、親切にも家に住んでいいと言われまして」
「それは、大変でしたね……」

優秀な観察眼を持ち、尋問に長け、それなりに鍛えていなければできない職業──

(……警察?)

会話しながら体格をさりげなく確認し、なんとなくあたりを付ける。探偵の情報の引き出し方ではなかったし、何よりも鍛え方が実践向けのそれだった。

「そうそう。携帯を購入しようと思ってるんですけど、この近くにお店ってあります?」
「ええ、スーパーへの道の途中にありますよ。ご案内します」
「ありがとうございます」

こんな男が、一体工藤邸で何をしているのだろう。わざわざ大学院生を詐称していることからして、かなり怪しい。

(まぁ、有希子さんにあとで確認するしか……)

そこまで考えた時、サッカーボールが飛鳥と沖矢の前を横切った。
ポンポン跳ねて電柱にぶつかり、一度また跳ねてからボールが止まる。
距離的に近かった飛鳥がそれを拾い上げ、転がってきた方向を見た。

「すみませーん!投げてくれますかー?」

小さな子供が5人、空き地の中で遊んでいた。
そばかすのある少年がパタパタと軽い足音を立てて駆けてくる。ボールを手渡すと、少年は沖矢の方を見て「あ!」と声を上げた。

「昴さん!どこかにお出かけですか?」
「買い出しだろ?」
「このお姉さんは?」

少々肥満気味の少年と少女がその後から沖矢に次々に話しかける。
子供と仲が良いとは意外である。否、外見は常ににこやかに笑っているので子供受けはいいのかもしれない。

「元太くんの言う通り、スーパーに買い出しですよ。この方は工藤夫妻のお知り合いだそうですよ」
「こんにちは。東雲飛鳥、いいます。よろしゅうね」
「お姉さん、関西の人ですか?」
「すっごくきれいな髪!」

元気の良い子供たちの後ろで、二人。冷めた目──というより、保護者のような風格(子供に風格と言うのもおかしいが)の少年と少女がいた。

「京都の生まれなんよ。暑いのに元気やねぇ。ちゃんと休んではるん?無理したらあかんよ」
「大丈夫!これから博士の家に行って、おやつをもらうの!」
「今日はプリンなんだぜ!」
「……博士の家?」

もしやと思って飛鳥は沖矢を見上げた。

「ええ、先程爆発していたお宅ですよ。今日のは特に盛大でしたね」
「えー……、そうですか……」

しょっちゅう爆発しているらしい。
沖矢が何ともない風に言うので、飛鳥もそのまま流すことに決めた。子供たちも平然としているので、気にするだけ無駄だと悟ったのである。

「お姉さん、有希子おばさんの知り合いなの?」

一歩引いたところから子供達を見ていた眼鏡の少年が突然口を開いた。

「優作さんとも知り合いやけど……、」

頷きながら、飛鳥は首を傾げた。
少年の顔にどこか見覚えがあるような気がしたからだった。

「ねぇ、うちとどこかで会ったこと、ある……?」
「……ないと思うよ?それより、おばさん達は今ロサンゼルスにいるから会うのは難しいと思うよ」
「うん、それは知っとるんよ。夏休みやし、息子さんに会いに帰国してはるかな〜って軽い気持ちで来てみたら沖矢さんにばったり会うてなぁ」

言いながら、飛鳥は気付いた。少年の顔が、記憶にぼんやりある工藤新一の顔と似ているのだ。
新一と最後に会ったのは十年前。ちょうどこの少年と同じ年頃の時だった。

……しかし、見れば見るほどそっくりに見えてくる。人間の記憶というものは割といい加減なのであまり信用はできないのだが、飛鳥は記憶力は良い方だった。

「新一くんと、よう似とるねぇ……」
「新一兄ちゃんのこと?よく言われるよ!もしかして、それで見間違えたんじゃないかな?」
「兄ちゃん?親戚か何かなん?」
「うん!僕、江戸川コナン。よろしくね、飛鳥さん」
「親戚の子に会えるなんて思てなかったわぁ。新一くんとはまたすれ違うてもうたけど、コナン君に会えたから良しとしよか」

飛鳥はなんだか懐かしくなり、コナンの頭を撫でた。
6年間のほとんどをホグワーツで過ごしていたので、この年頃の子供と接するのは久しぶりだった。
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