Girlish Maiden

□U
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ふと思い立ち、飛鳥は工藤家に向かっていた。運が良ければ、夫妻が帰国しているかもしれないと思い立ったのである。
魔法省の用事が予定よりも早く終わったこともあり、暇を持て余していた。

東都の観光をしてもいいが、夏休みはやはり人が多い。わざわざ人混みに好んで突っ込んでいくほどの元気もなかった。
工藤夫妻も息子の新一もいなければ無駄足になってしまうのだが、飛鳥はそのことに関しては気にしなかった。米花町は比較的喧騒からは遠い町なので、ゆっくり過ごせるだろうと思ったのである。
記憶にある住所と家の外観を頼りに、飛鳥は閑静な住宅街をのんびりした足取りで進んでいった。

「米花町2丁目の……、何番地やったやろか……。20番とかそんな感じやったような気はするんやけど」

立ち並ぶ家の表札を順に見ていきながらつぶやく。

「隣に博士が住んではったはず……」

ちょうどその時、飛鳥の視線の先で一軒の家から何かが爆発する音がし、もくもくと黒い煙が立ち上った。

「…………そう、ちょうどあんな感じの……博士の家……」

飛鳥が駆け足でその家の前へ行くと、隣の洋館から出てきた一人の男と目が合った。

「……あれ」

飛鳥は門の横にある表札を見た。
間違いなく工藤と書かれている。

「あの、工藤さんはいらっしゃいますか?」

背の高い男だった。
ハイネックの服に眼鏡をかけた、優男だ。

「失礼ですが──、あなたは?」
「ああ、申し遅れました。東雲飛鳥……、工藤ご夫妻の知人です」

ぴりっとした空気が一瞬漂うのを、飛鳥は感じ取った。見た目に反し、警戒心が強い相手のようだ。
男は飛鳥を見下ろした後、不思議そうに尋ねた。

「……息子さんの方ではなく?」
「新一くんとは十年ほど会えていないんです。……どうしてですか?」
「失礼、随分お若い方に見えたので。新一くんのご友人かと」
「あー……、よく言われますけど成人してますよ、私」

イギリスでは小人だの1年生に紛れてもわからないだの散々言われてきた。もはや何も感じないが、日本でも童顔を指摘されるとは思っていなかった飛鳥は遠い目をした。

「それはすみません。私は沖矢昴と申します。ここに居候させて頂いている大学院生です。有希子さんは週末に帰国される予定ですが、他の二人は分かりません」
「……わからない?新一くんもですか?」

飛鳥は首を傾げた。
国外にいる優作の予定が分からないというならば分かるが、ここに住んでいるはずの新一はどうしたというのだろうか。

「新一くん、ここには住んでいませんよ。留守を預かるという形で、僕が住まわせてもらっているので……」
「……住んでない?」

居候にも驚いていたが、飛鳥は沖矢昴の言葉にさらに驚いた。

「ええ。有希子さんから聞いていませんか?」
「私も帰国したばかりなので……。最近まで携帯も繋がらない場所にいたもので、連絡を取れなかったんです」
「ホー……。携帯も繋がらない場所、ですか。特殊な職業でも?」

──まずい。飛鳥は冷や汗をかいた。
夫妻が住まわせているということで、気を緩めてしまっていた。
どうやら、厄介な相手にとんだ情報を渡してしまったようだ。

「職業、というか……学校に通っていまして。携帯禁止なんです。そもそも、携帯は持ってないんですが」
「なるほど。ちなみにどちらから?」
「イギリスです。沖矢さんも学生なんですよね?どこの大学ですか?」

この相手に誤魔化しが通じるかどうか。
笑顔で答えながら、飛鳥は質問の矛先を沖矢に向けた。

「東都大学ですよ。東雲さんは?」
「イギリスでもすごくマイナーな学校なんですよ。……沖矢さん、どこかに出かけるところだったのでは?お時間は大丈夫ですか?」

これ以上突っ込まれては非常に困る。
マグルの全寮制の学校など知らないので、適当なことも言えない。
話を切り上げるのにもちょうどいいタイミングだろうと思い、飛鳥は話の終わりを見せた。
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