Girlish Maiden

□T
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ダンブルドアの指示に従い、飛鳥は1年ぶりに日本へ来ていた。
しかし、うだるような蒸し暑さにその足は止まっていた。

「こんなん……やってられんて……」
「こんなんやっとれるかボケェ……」

日陰のベンチに座り込み、思わず漏れた独り言が誰かと重なった。
飛鳥が横を見ると、反対側の端に座っている少年と目が合った。数秒沈黙し、二人は無言でまた前を向いた。

「……こう暑いと、なんもできんような気にならんか?」
「なりますなぁ。日本の夏は蒸し暑くて嫌になるわぁ」
「なんや、あんた帰国子女か何かか?」

何もしていなくても噴き出てくる汗を拭き、飛鳥はまた少年の方を見た。
色黒で、キャップをかぶった高校生くらいの少年だった。いま飛鳥がいるのは大阪なので当たり前だが、口調がコテコテの大阪弁である。

「普段はイギリスに住んどるんよ。用事ができたからたまたま日本に来ただけで、それが終わったらまたイギリスに直帰やわぁ」
「へぇ。イギリスはもう長いんか?」
「せやねぇ。7歳からやから、結構経つなぁ」

帽子のつばで顔を扇ぎ、少年はへぇと頷いた。

「俺、服部平次っちゅうねん。西の高校生探偵!ちゅうて、結構有名なんやで」
「あら、そうなん!うちは東雲飛鳥。ほんなら、今日も何か調べてはるん?」
「先月起きた事件について聞き込みしとるんやけど、これがなかなか進まへんのや……」
「それは大変やねぇ……。残念やけど、先月はまだ日本におらんわぁ」

飛鳥は心底同情した。聞き込みということは、ずっと外で道行く人に話しかけ続けているのだろう。彼の着ているシャツは汗で身体に張り付き、その大変さを表していた。

「脱水とか熱中症に気ぃ付けなはれや?」

太陽が移動し、飛鳥の座っている場所を照らし始めていた。
肌をじりじりと焼かれるのを感じ、飛鳥は立ち上がった。

「ほなね。あんじょうおきばりやす」
「おおきに」

平次に手を振り、飛鳥は歩き出した。
奈良、大阪、京都と陰陽師がいる場所は一通り回ったが、状況はまるで芳しくない。
やはり保守的な考えが多い彼らには期待するだけ無駄か、と飛鳥は肩を落とした。

ダンブルドアも、協力を要請するならば魔法界の方を優先してくれと言っていた。
とりあえず話だけでも通しておくことが目的だったのだが、そんな飛鳥の目論見はまるで外れた。
最初のうちは良かったのだが、途中から話も聞かずに門前払いする家が増えた。どうやら、魔法界と手を組めと主張する危険人物、つまりは飛鳥の情報が出回ってしまったらしい。

「こういう時だけ団結するとか、ほんま何やの……!おかげで五宮に見つからんうちに東京に行かなあかん羽目になったわ」

怒りながら、飛鳥は人通りの少ない路地に入ると周りを見渡した。
そして四方に誰もいないことを確認し、ポンと音を立てて姿くらまししたのだった。
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