Girlish Maiden
□XVI
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飛鳥が門まで歩いた頃、城の方からは生徒達が一斉に出てきていた。
少しだけその光景を見てから、飛鳥は僅かに開いていた隙間から学校の外へと足を踏み出した。
すなわち、守られた空間──ホグワーツ敷地内から、外へ。
その地から、飛鳥は一瞬で離れた場所へと移動していた。
あらゆる魔法の集合体とも言えるホグワーツ。
そこでは『姿あらわし』と『姿くらまし』はできない。
ホグズミードの郊外へと姿あらわしした飛鳥は、辺りを見渡した。
住宅は少なく、道は細い。
麓の方へ進んでいくと、大きな黒い犬が道の端の方に大人しく座っていた。
その前まで歩いて近付き、飛鳥は犬に話しかけた。
「こんばんは。私はアスカ・イツミヤ。よろしくね」
笑いかけると、犬は尻尾を振った。
「ホグワーツの門の前に姿あらわししたいのだけど……、戻ってもらえるかしら?もちろん人避けはするわ」
杖を取り出し、防衛呪文をいくつか唱える。
安全であることが分かると犬の姿は消え、代わりに一人の男が立っていた。
「ありがとう。それじゃ、行きましょうか」
「ああ。急ごう」
痩せた体にぼろぼろのローブを纏っていたが、その人の瞳には光があった。
二人は頷き合い、同時にその場から姿くらましをしてホグワーツの前へと移動した。
「ハグリッドの小屋の前にかぼちゃ畑があるから、ひとまずはそこで待っていて。何も起きなければハグリッド以外は誰も来ないわ」
「了解。ハグリッドに話は?」
「通っているわ。でも、ハグリッドは課題の方に行っているから今は大丈夫」
門の前で、二人は暗闇に紛れてひっそりと立っていた。
日はすっかり落ち、星が空に輝いていた。
男──無実のおたずね者シリウス・ブラックは再び犬の姿に変身し、飛鳥の横に寄り添った。
そして門の隙間を通り、シリウスはハグリッドの小屋へ、飛鳥は競技場の方へと向かった。
いつもはクィディッチ競技場として使われていた場所には背の高い生垣が立ち、迷路を形作っていた。
スタンドには生徒達が集まり、わいわいと話をしている。
裏からそれを見ていた飛鳥に、突然異変が現れた。
「───ッ!?」
息を呑み、飛鳥はくずおれた。
地面に手と膝を着き、倒れ込むのをなんとか防ぐ。
激しい痛みと警鐘が頭に響いていた。
目の前がチカチカと点滅し、呼吸が止まる。
「アスカ!どうしたのです、こんなところで!」
向こうからやって来たマクゴナガル教授が慌てて駆け寄る。
「アスカ!しっかりなさい、立てますか?」
「どうした?」
「ハグリッド!ちょうど良かった、ポピーをすぐに──」
「大丈夫、です。それより……、課題は」
息をつきながら、飛鳥はマクゴナガルとハグリッドを留めた。
「ミス・デラクールとミスタ・クラムが脱落しました。ポッターとディゴリーはまだ中です」
「……そうですか」
ハグリッドの手を借りて立ち上がり、飛鳥はよろめきながら競技場の入り口を目指して歩いた。
「飛鳥、無理したら駄目だ。医務室に行っちょった方がええ」
ハグリッドの言葉に首を振り、飛鳥はマクゴナガルを振り返った。
「セドリックの身に何かが起きました。ハリーも、この中にいません。……連れ去られたようです」
歩きながら、ポケットから二つのお守りを取り出す。
中に入っていた呪符のうち一つは焼け焦げ、もう一つは無事だが一部が破れてしまっていた。
「焼け焦げた方がセドリックに渡したものと対になっています。……最悪の事態を覚悟しましょう」
話が読めていないハグリッドの横で、マクゴナガルの顔が真っ青になった。
彼女は飛鳥の使う陰陽術を知っていた。
飛鳥が秘密裏に動いていることも、マクゴナガルは知っていた。
ダンブルドアに会うため審査員席を目指して、飛鳥はマクゴナガルと共に競技場へと入った。
──その時。
「ハリー!ハリー!!」
周りが騒然とする中、飛鳥は迷路の入口へと駆けた。
ダンブルドアが倒れているハリーにかがみ込み、ハリーはセドリックの腕をしっかり持っていた。
人をかき分け、ふらつきながら現れた飛鳥を見てダンブルドアが頷いた。
「アスカ」
「はい」
飛鳥はセドリックの横に座り、ズボンのポケットを探った。そこから出てきたお守りの中身と先程出した片割れを合わせる。
ファッジや周りの人々が何か言っていたが、飛鳥は反応しなかった。「死んでいる」「セドリック・ディゴリーが」「死んでいる」「死んでいる──」
セドリックの手首を持ち、飛鳥は待った。
「お願い……、これならいけるはず……」
──身代わりに呪いを受けさせる、古来からの方法。術が未熟だったために術者の飛鳥まで余波を食らったが、成功したはずだった。
「お願い……!」
ハリーの手がセドリックから離れる。
長い時間が経ったような気がした。
駄目だったのかもしれないと思い始めた時、飛鳥の指に微かな脈が伝わった。
「死んでいません──、医務室へ運んで下さい」
走ってくるエイモス・ディゴリーの姿を見て、飛鳥ははっきりとそう言った。