Girlish Maiden

□XV
2ページ/2ページ

談話室には誰もいなかった。
皆ダンスパーティに夢中で、飛鳥達のように抜け出した生徒はいないらしい。
クリスマスの装飾でいっぱいの暖炉の方へ行き、二人はソファに身を沈めた。
ジョージは頭まで後ろにもたれ、両足を投げ出して座っている。
飛鳥は深く腰掛けて楽な姿勢を取った。
少しきつく留めていた髪を解き、手櫛だが丁寧に頭を整える。

「長いよなぁ」

巻いたことで少し短くなっているとはいえ、飛鳥の黒髪は腰まである。
艶々と光を反射するそれは、極上の絹糸のようだ。

「巻くのに苦労したわ。準備のほとんどの時間はこれと格闘してたのよ。なかなか癖がつかなくって」
「いつも見事なくらい真っ直ぐだよな。髪といえば、ハーマイオニーもすごかった」
「どこの何を使ったのかしら……。戻ってきたら聞きたいわ」

今夜、一番注目を浴びていたのは間違いなくハーマイオニーだ。
一瞬誰なのか分からないほどの変貌を遂げた彼女は、本当に美しい少女だった。言い表すならばシンデレラだろうか。いや、白鳥に変身したアヒルの子か。
普段からきちんと髪の手入れをして化粧のひとつでもすれば、さぞかしモテるだろう。
飛鳥からしてみればハーマイオニーはハリーかロンのどちらかと行くのだろうとばかり思っていたので、クラムと踊っているのを見た時はそちらにも驚かされた。

「一年生の時はあんなに小さかったのにねぇ……」
「……たまに親目線になるよな、君」
「あら、失礼ね。自覚してるわよ」
「今じゃ身長も完全に抜かされたな」
「惨めになるからやめてちょうだい」

軽口を叩きながら、二人は笑った。
──これでいい。このままがいい。
祈るような、縋るような気持ちで飛鳥は笑っていた。

(うちのことなんか、好きにならんでよかったんに……)

何を間違えた?
隠して、誤魔化して、はぐらかして。嘘で塗り固めた飛鳥のどこを、彼は好きになったのだろう。
偽りに好意を向けられることは、こんなにもつらい。

「……なんだ、あれ?」

ジョージが何かに気付いた。
立ち上がり、彼はテーブルの上にある白いものを取り上げた。

「封筒……?あ、“飛鳥”って書いてあるぜ」
「……え?」

先程教えた漢字を見つけて、ジョージは嬉しそうに言った。
だが、飛鳥は不審に思った。──手紙?一体誰から。
宛名以外は何も書かれていない真っ白な封筒を受け取り、便箋を取り出した。

「………………」

手紙を開いた飛鳥の目つきが一瞬で変わる。
簡潔な文が、縦に二行。
飛鳥の薄く開いた唇から、音のない息が吐き出された。

「……飛鳥?」

少女は手紙を凝視したまま動かない。
やがて面を上げた飛鳥は、同時に手紙をぐしゃりと握り潰した。
封筒を暖炉の火の中に捨て、冷たい目でそれを見下ろした。

「……ほんま、しつこい人やね」

小さく吐き捨てた声に、力はなかった。


another story→「汝はされば いづこなりや?
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ