Girlish Maiden

□XV
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ひとしきり踊った後、飛鳥とジョージは大広間を抜けて玄関ホールに出た。
ずっと体を動かしていたので、暑くなったのである。パーティはまだ一時間ほどあったが、十分に踊り尽くした二人はグリフィンドール塔に戻ることに決めた。
息を落ち着かせながら、飛鳥はおかしさにずっと笑っていた。

「笑いすぎ」
「だ、だってあんなに回されると思わなかったんだもの……!」

くすくす肩を揺らし、笑い転げている原因はやはり悪戯仕掛け人達だった。
ある曲の途中でフレッドがアンジェリーナをぐるぐる回し始め、それを見たジョージが同じように飛鳥を回転させたのである。
リズミカルな曲だったことも相まって会場は盛り上がり、何組かは双子の真似もし始めた。
大広間からは激しい音楽が漏れ聞こえてくる。フレッドとアンジェリーナはまだノリノリで踊っているのだろう。中からは楽しそうな笑い声が途切れることなく続いていた。

階段を上りながら、飛鳥はジョージと二人きりであることに気が付いた。

彼が自分に好意を持っていることは勘付いていた。最近ジニーやアンジェリーナにからかわれることが増えた上に、最近ジョージの方も分かりやすく態度で示してきていたからだ。

欧米に日本のような告白文化がないことが何よりの救いだった。
欧米は、何度かデートを重ねてから恋人に発展する。「付き合ってください」等の申し込みは特にせず自然とそうなる。つまり、どこからが恋人であるという線引きはない。そのため、友人や家族に恋人を紹介すると「私たち付き合ってたの?」と驚かれたりするといった話は割と有名である。

とどのつまり、飛鳥にジョージと恋人になる気は全くなかった。付き合っていない段階でのデートの誘いは簡単に断れるが、下手に告白されでもすれば断る時に関係に亀裂が入る。
飛鳥としては、ホグワーツではただ円滑な人間関係を築くことができれば良かったのだ。
ある程度の友人と幅広い情報を得られるだけの知人で構成されていれば、それで満足だった。
そこに「恋人」などという、悪く言えば面倒なものはいらない。──飛鳥は、ここに青春をしに来ているわけではないのだから。

今回の誘いを受けたのは失敗だったかもしれないと思い始めていたその時。

「アスカってさ」
「ええ」

仕掛け階段を手を借りて飛び越えた時、ジョージが飛鳥の方を振り返って言った。

「日本語でどう書くんだ?」

手を離し、飛鳥は少し首を傾げた。

「杖、持ってる?」

小さなパーティバッグに入らなかったので、杖は部屋に置いてきていた。
ジョージがローブの内ポケットから自分の杖を出し、飛鳥に手渡した。
その杖の先を天井に向け、軽く振ると銀色の糸が飛び出した。
それは何度も曲がりくねり、やがて漢字を描き出した。
“飛鳥”

「……難しいな」
「馴染みがないものなんてみんなそうよ」

飛鳥は文字を消し、杖をジョージに返した。

話しているうちに、気分良く友達とワインを飲んでいる“太った婦人”の前まで到着していた。

「あらぁ、メリークリスマス!宴はもういいの、お二人さん?」
「ええ。踊り疲れちゃったのよ。満足したわ」

酔っ払い気味の婦人がにこにことろけた笑顔で「そう、そう、良かったわねぇ」と頷いた。

「だから部屋に帰って休みたいのだけど、開けてもらっていいかしら?」
「ええ、もちろん!合言葉は?」
「フェアリー・ライト、豆電球!」

暖かい談話室を目の前にしておきながら、足止めは食らいたくない。ぱっと入口を開いてくれた婦人に礼を言い、飛鳥とジョージは三時間ぶりに談話室へ戻ったのだった。
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