Girlish Maiden

□XII
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翌日は土曜日だった。
普段は遅くに起きる生徒達も早起きし、玄関ホールでゴブレットを見に行っていた。
フレッドとジョージが老け薬を飲んで名前を入れに行ったが弾き出され、立派な髭が生えたとグリフィンドールは大笑いをしていた。
他の寮の生徒も同じような方法でダンブルドアのかけた魔法を騙そうとしたが、全員が失敗していた。
そう――未成年は全員失敗した。そのはずだったのだ。

大広間にいる全ての人間が絶句し、一人の少年に注目した。
飛鳥も瞠目し呼吸を止めた。
視線の先にいる少年――ハリーも唖然とし、硬直している。

(なぜ―――)

疑問が飛鳥の頭の中を埋めつくした。

彼は入れたのか?悪戯半分に、誰かに頼んで?年齢の関係で選ばれないだろう、でも、と期待半分に。

それとも。
ハリーは、入れていない?

「ハリー・ポッター!」

ダンブルドアが名前を呼ぶ。
ほぼ無意識に飛鳥はダンブルドアの方を見た。
いつもの微笑は消え、少し険しい顔をしている。

──想定外だった。想定外どころか、これはあってはならないことだった。
ハリーがよろけながら立ち上がり、ダンブルドアの前へ行った。
悪夢でも見ているような表情で、彼は教職員テーブルの後ろの扉から隣の部屋へと入って行った。

「……どういうこと?」
「……入れたのか、ポッターは?」

小さなざわめきが徐々に広がり、大きくなっていった。
ダンブルドアが二校の校長と主催者のクラウチ氏とバグマン氏、マクゴナガルとスネイプを引き連れて部屋へ消えた。

「すっげえ、ハリー!どうやったんだ!?」
「入れてもらったんじゃないか?」

双子とリーが騒ぐ。彼らだけでなく、もはや全生徒が興奮していた。
ムーディが立ち上がり、同じ小部屋へと入っていった。
その後解散が告げられ、生徒達はぞろぞろと自分たちの寮へと戻って行った。
ボーバトンやダームストロングもそれぞれ寝床にしている場所を目指し、玄関ホールを通ってどこかへ去っていく。
飛鳥はそのまま、大広間に留まっていた。
ハロウィーンのかぼちゃを数個、浮かせて遊んでいると小部屋の扉が開いた。
ボーバトンのマダム・マクシームがフラー・デラクールの肩を抱き、出てくる。
その後ろからカルカロフとクラムが続き、少し経ってからハリーともう一人のホグワーツ代表であるセドリックが一緒に出てきた。
かぼちゃをテーブルの上に戻し、飛鳥はしゃがみこんで二人から姿を隠した。

「それじゃ僕たち、またお互いに戦うわけだ!」
「そうだね」

玄関ホールへ出た彼らに続き、飛鳥は扉の手前で立ち止まった。

「いったいどうやって名前を入れたんだい?」
「入れてない」

ハリーがきっぱりと否定した。

「僕、入れてないんだ。僕、ほんとうのことを言ってたんだよ」
「ふーん……そうか」

セドリックは信じていない様子だ。

「それじゃ……またね」

二人が別れた後に、飛鳥はハリーを追って扉を抜けた。
重い足取りで大理石の階段を上る彼にすぐ追いつき、声をかける。

「ハリー」
「アスカ?」

驚いて振り返ったハリーと並んで歩き、飛鳥は単刀直入に疑問を投げかけた。

「入れてないのね?」
「僕は入れてない!……信じてくれる?」
「私は信じるわ。ただ、同じことを他の人には期待しない方がいい。ハーマイオニーやロン以外のね」
「……うん」

少しの沈黙の末、飛鳥は昨日話さなかったことを口にした。

「ハリー。カルカロフに気をつけて」

予想外の名前に、ハリーの目が丸くなった。
だがすぐに昨日のことを思い出したのか、玄関ホールの方を気にしながら聞き返した。

「カルカロフ?どうして?」
「……あの人は死喰い人よ。一度アズカバンにも入ってる。――いい?誰かがゴブレットを騙してまであなたの名前を入れた。その目的は分からないけど、意思ははっきりしているわ」
「な、んの?」

ハリーが言葉を詰まらせる。
真剣な表情で、飛鳥はハリーの目を見ていた。

「悪意よ。あなたが対抗試合に出て得することなんてほとんどないかもしれないけれど、その誰かには必ずある。わざわざそうする――そうしなければならなかった理由がある、ということよ」
「怪我をさせる、とか?」
「……ええ。だから、気をつけて。困ったことがあったら大人を頼りなさい。私も手伝うわ」

ハリーは驚いた様子で、飛鳥を見つめ返していた。
火の消えた大広間に残り、ハリーが一人になる時を狙って忠告をしに来た彼女が気になったのだろう。
だがその疑問には答えず、飛鳥はそれきり黙ってしまったのだった。
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