Girlish Maiden

□XII
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新学期が始まってから一ヶ月が経った。ボーバトンとダームストラングを迎え、ホグワーツは普段よりも数倍は賑やかになっていた。
特にかの有名なクィディッチ選手ビクトール・クラムがダームストラングの生徒だと発覚したので、しばらくはその話題でもちきりだった。

さらに二校の歓迎会では、試合開催にあたっての代表選手の選出方法と詳細が明かされた。

「参加三校から各一人ずつ。選手は課題のひとつひとつをどのように巧みにこなすかで採点され、三つの課題の総合点が最も高い者が優勝杯を獲得する。代表選手を選ぶのは、公正なる選者……『炎のゴブレット』じゃ」

名前の通り、そのゴブレットには青白い炎が宿っていた。

「代表選手に名乗りを上げたい者は、羊皮紙に名前と所属校名をはっきりと書き、このゴブレットの中に入れなければならぬ。立候補の志ある者はこれから二十四時間の内にその名を提出するよう。明日、ハロウィーンの夜にゴブレットは各校を代表するに最もふさわしいと判断した三人の名前を返すであろう」

ダンブルドアの話が終わり、生徒達が一斉に立ち上がる。

老け薬で誤魔化すと意気込むフレッドの後ろで、飛鳥はスリザリンのテーブルにいたダームストラング校の方を見ていた。
その視線の先ではちょうど、校長のカルカロフがあれこれとクラムの世話を焼いているところだった。

「ビクトール、気分はどうだ?十分に食べたか?厨房から卵酒でも持ってこさせようか?」

クラムは無言で首を横に振った。
それを見て、違う生徒がカルカロフにものをねだった。

「校長先生、僕、ヴァインがほしい」
「おまえに言ったわけではない、ポリアコフ。また食べ物をベタベタこぼして、ローブを汚したな。しょうのないやつだ――」

ちょうどドアのところで、カルカロフと飛鳥が鉢合わせた。
先を譲った飛鳥に目も合わせず礼を言い、カルカロフは何気なく彼女の後ろを見た。
飛鳥の背後には、ハリーがいた。
立ち止まり、彼は凍りついたように額の傷を凝視した。

「……カルカロフ校長。後ろがつかえます」

先頭で飛鳥が静かに言った。
カルカロフの後ろでダームストラングの生徒達が列を成しているため、彼らもハリーに気がついた。

「そうだ。ハリー・ポッターだ」

ムーディの声が轟いた。
カルカロフの顔が強ばり、怒りと恐れの入り混じった表情に変わった。

「おまえは!」
「わしだ」

飛鳥は注意深くムーディを見つめた。
義眼の魔法の目がカルカロフを嫌悪感たっぷりに睨めつけている。

「ポッターに何か言うことがないなら、カルカロフ。退くがよかろう。出口を塞いでいるぞ」

カルカロフはすぐさま生徒を引き連れて去っていった。
飛鳥が見ていることに気付いたムーディが彼女の方を向き、先へ行くよう促した。

「おまえも行け。あー、イツミヤ。カルカロフを相手によくものを言えたな。日本人だろう?珍しい」
「…………。はい」

ふいっと目を逸らし、飛鳥はムーディの前を通り過ぎて玄関ホールへと出て行った。
義眼の視線がすぐに外されたことを感じ、息を吐く。

「……カルカロフ、ね」

小さく零した一言を、ハリーが拾った。

「何か気になるの?」

斜め後ろにいる彼の方を見上げ、飛鳥は首を振った。
にこりと微笑み、「なんでもない」と話を終わらせた。
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