Girlish Maiden
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「なに?なんなの?」
事態を分かっていないジニーが不安げに周りを見渡した。
血の気が引いていく感覚を押さえつけ、飛鳥は強ばった表情を無理矢理普段通りに戻した。
「闇の印よ。『例のあの人』によって人が殺された時、決まって打ち上がってた印のこと」
ジニーの顔が青ざめた。
双子も妹を守るようにしっかり前に立ち、印を見上げている。
しばらく、恐慌状態が続いた。
緊張が解けたのは「もう大丈夫だ」という役人の声だった。
「……戻りましょう」
試合前後とは打って変わった暗い気分で、四人はテントに戻った。途中でチャーリーに出会い、引き連れられて中に入った。
テントではビルが腕を負傷し、パーシーが鼻血を出していた。
「……他の三人は?」
呆然とジョージが尋ねる。
「ロン達はまだ戻らない。今、父さんが探しに行っているよ」
チャーリーが答えた。彼に目立った傷はないが、シャツが大きく裂けていた。
飛鳥はビルに近寄り、傷に手をあてた。一瞬淡い光が掌の下から発せられ、身体に吸い込まれていった。
手を放した時には血はおろか、一直線に肌を走っていた傷は跡形もなく消えていた。
飛鳥はシーツを破り、ビルの腕に巻き付けた。
「あまり激しく動かさないようにして。あくまで応急処置よ。帰ったら薬を塗ってもらって」
「ありがとう、アスカ」
傷は消えた。だが、それは表面だけだ。
飛鳥がしたことは、止血をしただけにすぎない。
「アスカは癒者になればいいのに」
「嫌よ、こっちが病みそうだもの」
「ぴったりだと思うけど」
「……卒業後の進路のひとつに考えておくわ。パーシー、鼻血は冷やして下を向くと良いわ。外で洗ってきたらどうかしら?」
ハンカチで鼻をおさえていたパーシーはそれを聞き、言われた通りに俯きがちにテントを出ていった。
「父さん、何が起こってるんだい?」
テントの中から首を出して様子を伺っていたチャーリーが、不意に外に向かってそう言った。
「フレッド、ジョージ、ジニー、アスカは無事戻ってるけど、ほかの子が――」
「私と一緒だ」
ウィーズリー氏がテントに潜り込みながら言った。その後にハリー、ロン、ハーマイオニーが続いて入ってくる。
血の気のない顔をして、消耗していることがすぐに分かった。ショック状態の双子とジニーも同じような顔色だ。
飛鳥はビルの横を離れ、キッチンへ向かった。
寝る前に飲んだココアを人数分マグカップに入れ、杖で鍋を叩いて湯を沸かす。
この騒ぎだ。学生が多少魔法を使っても咎められないだろう。
熱いココアを持っていくと、ロンとハーマイオニーが闇の印の話をしていた。
「別にあれが悪さをしたわけでもないのに……なんで大騒ぎするの?」
「言ったでしょ、ロン。あれは『例のあの人』の印よ。私、『闇の魔術の興亡』で読んだわ」
「それに、この十三年間、一度も現れなかったのだ。みんなが恐怖に駆られるのは当然だ……。戻ってきた『例のあの人』を見たも同然だからね」
ウィーズリー氏が静かに言った。
気付け代わりのココアを配って回り、飛鳥はハーマイオニーの横にすとんと座った。