Girlish Maiden

□X
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試合はアイルランドの勝利に終わった。
人気選手のビクトール・クラムがスニッチを取ったものの点が足りず、ブルガリアが敗北したのである。

試合が終わり、テントに戻った後も興奮は醒めなかった。
ジニーがテーブルに突っ伏して眠り込むまで、寝る空気にもならなかったほどだ。

女子用のテントに行き、着替えてベッドに横になった――眠りについて、どれほどの時間が経っていたのかは分からない。
異変を感じ取り、飛鳥は目を覚ました。
外から微かに悲鳴と走る音が聞こえてくる。
飛鳥は即座に異常事態と判断し、跳ね起きた。
迷いなく杖をポケットに突っ込み、ハーマイオニーとジニーを揺すった。

「ハーマイオニー!ジニー!!」

驚いた二人が飛び起きる。彼女達もすぐに何かが起きていることを察知し、立ち上がった。
コートを羽織った時、ウィーズリー氏がテントに駆け込んできた。

「三人とも起きなさい!緊急事態だ!上着を持って外へ!」
「杖も忘れないで。いざという時は躊躇わないで使って」

音が近付いてきている。
何かが弾ける音と大砲のような音と共に、下品な笑い声や喚く声も聞こえる。
外に出ると、既に全員が揃っていた。
音のする方向で、仮面をつけた魔法使い達の集団が行進していた。その頭上に複数の影があった。

――このキャンプ場の管理人と、その家族だ。

「……なんてことを……!」

夫人と思しき女性が逆さまにされ、小さな子供が独楽のように回されている。
あまりの仕打ちに、飛鳥は顔を歪めた。

「私達は魔法省を助太刀する」

ウィーズリー氏が声を張り上げた。

「おまえたち、森へ入りなさい。バラバラになるんじゃないぞ。片が付いたら迎えにいくから!」

ビルとウィーズリー氏がちらりと飛鳥の方を見て、目配せをした。
それに頷き、飛鳥は学生達を促した。

「行きましょう。大丈夫、魔法省がなんとかするわ」

フレッドがジニーの手を引っ張って先行し、森へ向かった。
真っ暗な森の中は、魔法使い達でいっぱいだった。
子供は泣き叫び、大人も不安と恐怖にかられている。

「奥の方に行きましょう」

はぐれないで、と飛鳥が言いかけた時にロンが痛そうな声を上げた。人に押され、心配そうにロンを探すハーマイオニーの声が遠ざかっていく。

「しまった。三人とはぐれたわ」
「アスカ、一体――」

ごった返す周囲に揉まれ、フレッドの質問も消えた。
せめて彼らとは離れないようにしなければならない。飛鳥はジニーと手を繋ぎ、人の少ない場所を目指して四人は歩いた。

「大胆ね、あの死喰い人たち。捕まるといいんだけど」
「修羅場に慣れすぎじゃないか?アスカ」
「やけに落ち着いてるわよね」
「そんなことないわ。これでも動転しているのよ?」

飛鳥が微笑んだ、その時。
ほんの一瞬だけ、ざわめきが静まり返った。
周囲につられて飛鳥達も上を見上げた。

「―――!」

それを確認したと同時に、一斉に森から悲鳴が上がる。
ほとんど全員が、今まで以上の恐怖に襲われていた。

空に打ち上がった、巨大な髑髏。
緑がかった靄が周りを取り巻き、真っ暗な空で輝いている。
魔法界に住む誰もが恐れる闇の印が、そこにあった。
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