Girlish Maiden

□Z
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フロントに飛鳥のスーツケースを預けてから、三人はロビーの隣にあるカフェに入った。
工藤夫妻は紅茶を、小腹が空いていた飛鳥は紅茶に加えて軽食も注文した。

「でも、携帯が使えないなんて不便よねぇ。メールに比べたらふくろうの方が遅いじゃない?」
「そうなんですよね。なんだかそのあたりは原始的というか、どうにかならないのかと思います」
「ふくろうだと管理も大変だろうに。まぁ、古き良き文化と言ってしまえばそれはそれでいいものなのだろうが」

三人は少し声をひそめて話した。
魔法界では急ぎで連絡を取りたい場合は直接会いに行くという手を使うので、メールのような通信方法にそこまでの需要はないのだろう。
だがそれも姿あらわしができる大人限定での話である。子供はやはり不便極まりない。

「……そういえば、シリウス・ブラックの話を聞いたわよ。あの人、魔法界の人なのね」
「あぁ、彼……。先週まで学校にいましたねぇ」
「……え!?」

有希子が絶句する。
優作は興味深そうに眼鏡の奥で瞳を光らせた。

「大変でしたよ。いろいろと」
「大丈夫なの?誰か怪我させられたりとか、そういうのは」
「ふふ、それは大丈夫でしたよ。ここでお二人に問題です。シリウス・ブラックが起こしたとする事件の詳細についての記事がこちらにあります」

新聞の切り抜きを渡し、飛鳥はにこにこと続けた。

「実はシリウス・ブラックは無実の人だとすると、真犯人は誰で、どのようにして彼に罪を擦り付けたでしょうか」

二人の目が新聞記事の字を追う。
優作はすぐに分かったらしく、自信満々の表情で顔を上げた。

「分かったよ」
「私、全然分からないわ。怪しいのはこの、ピーターって人だけど……」
「正解ですよ。優作さん、答えをどうぞ?」
「ピーターは人々を殺害したあと、あたかも自分が死んだかのように見せかけたのだろう。残骸の中に指だけが残り、姿が消えていれば人々はブラックがピーターを無残に殺したのだと錯覚する。死体もいらないのだから、実に簡単なトリックだよ。状況証拠で判断すれば、ブラックが犯人なのは一目瞭然だろうからね」

飛鳥は微笑んだ。
シリウス・ブラックを裁判にもかけずに牢獄へ入れた魔法省のことを考えると、やるせない気持ちになる。
優作のような人物がいれば、何かが変わっていただろうか。

「じゃあ――無実の罪で、十年以上も?」
「はい。今もその冤罪は晴れないままです」

あの日の夜。
ピーター・ペティグリューを捕まえることさえできれば、結末は変わっていた。

「……うちが、ペティグリューを捕まえられたら良かったんですけど」
「飛鳥ちゃん……」

ネズミは小さく、捕獲は不可能だった。
残念そうに飛鳥は眉を下げ、紅茶に口をつけた。

――その時。

「飛鳥……?」

背後からかけられた声に、飛鳥はゆっくりと目を見開いた。

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