Girlish Maiden

□Z
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「こっちよ、飛鳥ちゃん!久しぶりね!」

明るい声に出迎えられ、飛鳥は日本に降り立った。
当たり前だが日本語が溢れている周囲に驚き、掛けられた声にもう一度驚いた。
人が多い国際線の到着ロビーで、見知った人がそこにいた。

「ゆ、有希子さん!?」
「んもう、お迎えくらい来るわよ〜。水臭いんだから!体調は大丈夫?時差ボケは酷い方?」

矢継ぎ早に繰り出される言葉に苦笑が漏れる。

「大丈夫です。飛行機はやっぱり慣れへんけど、帰りは使わんから……」
「あらぁ、そうなの?」

飛鳥を迎えに来たその人の名は、工藤有希子。元女優であり、人気推理小説家の工藤優作の妻である。

工藤夫妻とは紆余曲折を経て、長く関係が続いている間柄だ。
さらに有希子はマグルでありながらも、魔法の存在を知っている。飛鳥が魔女であり陰陽師であることも承知の上で友人として彼女と接している人物でもある。
有希子の夫の優作は著名人であるが故に、様々な業界の事情を手広く知っている。国と裏では密接な魔法界や陰陽師との関わり合いも、耳にする機会はあるということだ。但し、聞いた本人が信じるかどうかは別の話だが。

マグルの政治を動かすのはマグルの役目だが、同じ国に住んでいる以上は当然、魔法界との付き合いもある。
例えばシリウス・ブラックのような囚人が逃げ出したりした場合は、報道規制がかけられる。魔法を行使したことによる罪や、魔法界特有の名前をそのまま発表するわけにはいかないからだ。

魔法界や陰陽師といった存在は隠匿されるべきとされ、マグルには公表されていない。
それが互いのためだというのがここ数百年ほどの認識である。

「優作、飛鳥ちゃん連れてきたわよん」
「お久しぶりです。えらいすんまへん、わざわざ……」

飛鳥は車に乗り込み、運転席にいる優作に頭を下げた。
メガネを掛け、上品な口髭を持つ工藤優作が気さくな笑みを浮かべて車内に飛鳥を迎え入れた。

「気にしなくていいんだよ。私達が好きでやっていることなんだからね」
「そうよ〜、飛鳥ちゃんとはもう長い付き合いだし、遠慮はいらないわ。でも、突然飛鳥ちゃんから電話がかかってきて驚いたのよ。元気そうでよかったわよね、優作」
「ああ。ちょうど私達が日本に帰っている時で良かったよ。急に帰国を決めたのかな?」

イギリスで飛鳥は空港から有希子の携帯に国際電話を掛けた。今回の帰国は、年上の友人を訪ねることが目的だったからだ。しかし、てっきり日本にいるものと思っていた彼らは、去年生活の拠点をアメリカに移していた。いま日本にいるのは息子の顔を見るためらしく、明日の夜にはまたアメリカへ戻るそうだ。

「息子さん――新一くん、お元気ですか?」
「元気よ〜。優作に似て、相変わらず推理ごっこばっかりやってるみたいだけど」
「その言い方だと、優作さんにはまだ追いつきそうにないですか?」
「ははは、まだまだだよ」

彼らの息子、工藤新一は飛鳥と同い年の少年である。アメリカに渡った両親と違い、彼は日本に残って生活している。
幼い時に一度会って以来、飛鳥は新一とは顔を合わせていないのだが。

「今日もサッカーの試合があるとかでいないのよねぇ。飛鳥ちゃんと新一、もう九年もすれ違ってるわよ」
「うちも有希子さん達もずっと忙しいですから、仕方ないですよ」

ホグワーツではマグル製品を使えないため、連絡を取ることもできない。
多忙の身のため、会う機会も限られてくる。夫妻揃っての再会は実に二年ぶりだ。

「そういえば飛鳥ちゃん、ホテルは決めてるの?」
「前に泊まったホテルを予約しときました」
「米花ホテルのことかな?」
「よう覚えてはりますねぇ。そこです」

飛鳥は感心しながら頷いた。
前回日本に帰ってきたのは五年も前だ。
今まではイギリスで会っていたのである。

「じゃあそこでお茶しましょう。飛鳥ちゃんも長旅で疲れてるでしょうし、残念だけどお出かけはまた今度ね」
「有希子さん、おおきに。けど、平気ですよ?」
「あら、だめよ。体は疲れてるわ。早めに寝て、しっかり睡眠を取らなきゃ!」

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