Girlish Maiden
□Y
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大広間に入ると二年生以外の生徒達ばかりがテーブルに座っていた。
「アスカ!ホグズミードには行かなかったの?」
空いている席を探している飛鳥に、ジニーが声をかけた。
飛鳥はこれ幸いと彼女の横に座った。
「さっき起きたのよ。アリシアに誘われたんだけどね」
「あら、お寝坊さんね」
ジニーはくすくす笑い、次いで真顔になった。
飛鳥の方に身を寄せ、彼女は声を潜めて話し始める。
「……聞いた?ルーピン先生のこと」
「ええ。さっき、フリットウィック先生から」
「それと、ハリー達よ」
「ハリー達?」
何も知らないふりをして、飛鳥は聞き返した。
燃えるような赤髪を振り、ジニーが頷く。
「さっき医務室の前を通ったら、三人の声が聞こえたわ。ハリーとロン、ハーマイオニーのよ。昨日何してたのかしら?」
不安そうな、だが咎めるような口ぶりに飛鳥は彼女の母親を思い出して笑い出しそうになった。
まだ二年生だというのに、ジニーはしっかりしている。
「また危険なことに首を突っ込んだに違いないわ……。まさか昨日の事に関わってるとか、ないわよね?」
「さぁ……」
そのまさかであったが、飛鳥は曖昧に笑って適当な言葉で濁した。
昨夜の出来事がどのような形でホグワーツに広まっているのか、飛鳥は知る機会を逃してしまっている。下手なことは言えなかった。
十中八九、生徒達に詳しいことは知られていないだろう。
「まさかあの三人でも狼人間を相手にしようとは思わないわよね……」
「そんなことしてたら今頃、三人とも面会謝絶の重病人になっていると思うわ」
真面目な顔で飛鳥は言った。
ジニーはその狼人間を気絶させた人物が真横にいるとは知る由もなく、まだ不安そうに昼食をつついている。
飛鳥はスープを取り上げ、年下の少女にさらりと言い放った。
「心配なら会いに行ったら?話し声が聞こえるほど元気なら、お見舞いくらい許されてると思うわよ」
ジニーは飛び上がった。
髪と同じくらい頬を赤くし、ぶんぶん首を振っている。
「無理!無理よ!」
「あら、いいじゃない。お見舞い。ロマンスに発展するかも」
「絶対しないわ!」
飛鳥はにやっと意地悪く笑った。
「私、一言も“ハリーの”お見舞いなんて言ってないわよ」
「……屁理屈!」
「初々しいわねぇ」
ホホホとわざとらしく笑う飛鳥を頬を膨らませて睨み、ジニーはかぼちゃジュースを一気に煽った。
「アスカはいないの?」
「ん?」
「恋人よ。そういった噂、全然聞かないと思って」
幼かろうが女は女だ。飛鳥は横の少女を見る目を変えた。
ジニーはもう、一方的に可愛がられる年齢ではなくなったらしい。
小さな子が単なる好奇心で聞いてくる顔をしていなかった。
恋を知ったのだから当然かと思い直し、飛鳥は微笑んだ。
「いないわ」
「一度も?このホグワーツでも?」
「ええ、一度も」
「……嘘でしょう?」
おずおずと、だが確信を持った問い掛けに飛鳥はおやと動きを止めた。
「どうしてそう思うの?」
注意深く聞く。
同性というものは時に厄介なものだ。
核心を突き、嘘を見破ることに長けている。
「だって、なんというか……そう見えないんだもの」
「あらまぁ」
曖昧な言い方だったが、飛鳥は感心した。
ウィーズリー兄妹は勘が鋭い子供が多いらしい。
「その直感は大事にした方がいいわ、ジニー」
「え?」
「でも、はずれ。私に恋人がいたことはないわ」
にこりと笑い、飛鳥は席を立った。
ジニーに有無を言わさず、彼女は手を振って大広間を後にした。
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