Girlish Maiden

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グリフィンドールがクィディッチ優勝杯をもぎ取った。
七年ぶりの優勝に寮生全員が沸き立ち、しばらくは興奮が冷めやらぬ状態だった。

喜びに浸りたい気分が続いたが、試験が迫っていた。
季節は夏に近付き、日差しも強くなっていった。
談話室や図書館の人口密度は高くなり、逆に廊下や中庭には人気がなくなった。
その頃になってようやくフレッドとジョージは勉強に手をつけ始め、アンジェリーナ達は発狂を通り越して逆に冷静になっていた。

「どうしてアスカはいつもそんなに余裕なの?」
「別に余裕じゃないわよ。焦ってるわ」

飛鳥は羊皮紙から目を離さずに返事をした。魔法史の教科書を左手に持ち、羽根ペンを握る右手は休むことなくガリガリ書き続けている。
アンジェリーナとアリシアは「なぜいつも図書館の本を片っ端から読んでいるのに魔法史を勉強しているのだろう」と真っ当な疑問を抱いていたが、本人に答える気は一切ない。
アリシアは羊皮紙を覗き込むと、眉を寄せた。

「……日本語と英語が混ざってるわよ」
「うわ、ほんとだ。器用」
「時短よ、時短」

飛鳥はインク壺に羽根ペンを突っ込んだ。
ふくろう試験は二週間にわたって行われるため、相当の気力が必要だ。
飛鳥は長い黒髪を後ろでまとめ、前髪も邪魔にならないようにピンできっちり留めた。
他の生徒からすれば、魔法史などというつまらない教科に力を入れている飛鳥の姿は奇異に映るだろう。

だが実は、彼女は勉強などしていなかった。
日本語で書かれた箇所は魔法史とは何ら関係のないものばかりだ。内容はどれも最近起きたことばかりのことで、まるでぶつ切りの日記である。

羊皮紙の上の方に“ハグリッドを訪ねたらファングに飛びつかれた”や、線を引っ張った先に“バックビークの裁判に負けたらしい”、隅の方には“マクゴナガル先生の帽子が新しくなっていた”など、取り留めのないことしか書かれていない。
良く見ると英語の方もスペルが間違っていたりするので出来は酷い方だ。

「長い単語って苦手だわ」

間違いに気付き、書き直しながら飛鳥はぼやいた。

「合ってるのか間違ってるのか、見比べてたら分からなくなるわ。感覚で書いたら間違えるし」
「ミスが多いのはそのせい?」
「見逃してくれたらいいのにね。特にマクゴナガル先生!私のスペルミスの多さに気付いてるから、容赦なく点を引くの。全部よ!絶対見落とさないのよ」

飛鳥も試験勉強のストレスが溜まっているらしく、いつもより饒舌である。
衝動的に羽根ペンと教科書を窓から投げ落としたくなり、飛鳥は羽根ペンを置いた。

ぐっと伸びをし、窓の外の空を見上げた。
空の青さにもうすぐ一年が終わるのだと、彼女は気付く。

夏休みに少しだけ日本に帰ろう。そんな思いを抱きながら杖を手に取り、くるりと回す。

時間は容赦なく過ぎていく。
刻一刻と近付き、そして。

ふくろう試験が始まる。

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