Girlish Maiden

□W
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「ミス・あー……イツミヤ」
「名前を覚えて下さい、スネイプ先生」
「黙りたまえ、言い間違えそうになっただけだ。……ところで、ルーピンとは何の話を?」

飛鳥が角を曲がった途端、絡みつくような低音が彼女を呼び止めた。
スネイプが甲冑の影に隠れるようにして立ち、飛鳥を見下ろしていた。

「世間話をしていただけです」
「奴を信用するなと、学期初めに言ったはずだが?」
「言いましたか?私に?」
「ああ、グリフィンドールには言っていなかったか」

飛鳥は嘆息し、薬学教授を見上げた。
彼なりに気を使っているのだろうが、残念ながらそんな片鱗は全く感じられない。

「そのうち痛い目を見ますよ、先生。私は気にしませんが、生徒達はただでさえ過敏な時期なんですから」
「わかっているのなら君もさっさと勉強に戻っては如何かね」
「そうですね。……あぁ、それと。滞りなく……」

肩をすくめ、飛鳥はスネイプと別れた。
減点されなかったことは奇跡に近いと思いながら、今度こそ図書館に足を踏み入れた。

「マダム・ピンス、返却です」
「……おや、もういいのですか?」

カウンターで声を掛けると、司書が顔を上げて飛鳥と本を見比べた。
禿鷹に似たその顔は厳しい仏頂面だったが、見慣れた飛鳥は笑顔で首肯した。

「そろそろここの本は全て読み尽くしてしまうのでは?」
「試験で忙しいので今年中は無理ですよ。やるなら来年ですね」
「あら、そうですか。……よろしい。行っていいですよ」

本に欠損がないか調べ終わったマダムが素っ気なく言う。
それなりに会話する仲だとは思っているが、いつまで経っても彼女の態度は変わらない。あれが素なのだろう、と飛鳥は五年目にして結論付けた。

図書館を出ようと足を踏み出した瞬間、飛鳥は顔ごと誰かの胸板と衝突した。

「うっ、……た……」
「大丈夫か?ってアスカじゃないか」
「やっぱりここだったか」

飛鳥が額を撫でさすりながら顔を上げると、談話室にいたはずのフレッドとジョージの顔がすぐそばにあった。

「私を探しに来たの?」
「ああ。アンジェリーナ達がアスカがいないって半狂乱になってるぜ」

飛鳥の友人達は、どうやら本格的に危ないところまで行ってしまったらしい。
試験は人をダメにすると思いつつ、飛鳥は額から手を下ろした。

「…………一応、声は掛けたのだけど」
「届いてなかったみたいだな」

揃いの服を着た双子は一見、見分けがつかない。性格や言動までもがそっくりな二人をすぐに判別することはできないが、生徒の一部はなんとなくどちらが誰なのか分かる。
頻繁に絡まれる飛鳥もそのうちの一人だが、それでもたまに間違えるほどだ。
聞けば、彼らの母親でさえ分からない時があるという。

「……そういえばあなた達って、絡みに来るけど悪戯はしないわね」
「アスカに悪戯したら吹っ飛んじまいそうだからな」

フレッドが茶化して言ったが、ジョージは黙って肩をすくめた。
片割れの仕草を見て、フレッドは「あー」と口篭りながら目を泳がせた。

「なに?」
「アスカに悪戯は通用しないから」
「あら、……まぁ」

フレッドの代わりに答えたジョージに、飛鳥は気付いてたのか、と胸中で呟く。

「仕掛ける前に気づいてこっち見るし、あらかじめ設置してたのにも引っかからないし、遠くから何か飛ばしても避けられるし」
「ニンジャか、アスカは?」
「……外国人って忍者とか侍好きよね」

そんなわけないでしょと否定しつつ、飛鳥は双子の洞察力に舌を巻いた。
正直、そこまで細かく見ていないだろうと油断していたのである。

「でも、さっきみたいな不意の事故は避けられないんだな」
「さすがにそれは無理よ」

鋭い。
この二人は飛鳥が話すことを避けてきた事に勘付き、暴こうとしている。
どうしたものかと思案し、飛鳥は結局、いつも通りはぐらかすことにした。

「さっきはちょっと痛かったわ。鍛えてるのね」

思い出したように額に手をやり、衝突したのはどちらなのだろうと双子を見比べる。

「ああ、赤くなってるな」
「悪い悪い」

額を覗き込んだのはジョージ、軽い調子で謝ったのがフレッドだ。

「私もよく確認せずに出たからお互い様よ。あなたは痛くなかったの?」
「特には」
「アスカの方がダメージ大きいだろ。ちょっと吹っ飛んでた」
「吹っ飛んでないってば。あなた達、私をすぐ飛ばそうとするわね」

前にぶつかった時も同じことを言っていたことを思い出し、飛鳥はそう言った。

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