Girlish Maiden

□W
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ドラコ・マルフォイを襲ったというヒッポグリフの処刑が決まったこととハーマイオニーが占い学をやめたことは、すぐに飛鳥の耳に入った。ハリー達三人はその時に仲直りをしたらしく、それからは一緒にいるところを見かけた。
課題や試験勉強をこなしているうちにイースター休暇に入っていたが、5年生はとんでもない量の課題を片付けることに追われた。
ハリー達3年生も常に忙しそうにしていた。飛鳥はハーマイオニーを気にかけていたものの、自身も手一杯だった。
談話室のテーブルでアンジェリーナ達と齧り付きで勉強している時、飛鳥はふと顔を上げた。
ノイローゼ一歩手間の友人達はそのことに注意を向ける余裕はないらしく、誰も何も言わなかった。特にアンジェリーナとアリシアはクィディッチの練習も毎日こなしているため、いつ魂魄が口から抜けてもおかしくない状態である。
休暇明けにすぐ対スリザリン戦が待っているのだ。オリバー・ウッドは休む暇などないと言いながら、頻繁に作戦会議を開いていた。

「……本の返却に図書館に行ってくるわ」

彼女達を刺激しないように声を潜めて言い、飛鳥は立ち上がった。
テーブルの上の本を数冊掴み、ふざけている双子の横を通って肖像画の方へ向かう。
同学年のはずのフレッドとジョージの勉強している姿はあまり見ない。
彼らは頭はいいのだが、その才能と熱意は専ら勉学とは別の方向に向いていた。
すなわち、悪戯である。

「行ってらっしゃい」

太った婦人の優しい声に送り出され、飛鳥は図書館への道をのんびり歩いた。
正直に言えば、勉強に飽きていたのである。
本の返却日はまだ先だったが、飛鳥は既に読了していた。
渡り廊下に差し掛かった時、春の風が吹いた。寒くもなく暖かくもない風だった。
腰まで届く飛鳥の黒髪が揺れ、遊ぶことなく背に戻った。
廊下の端からそれを見る視線に気付き、飛鳥はそっと声をかけた。

「ルーピン先生」

やつれた防衛術の教師は、その一言ではっと我に返ったような顔をした。

「やあ、アスカ。良い気候だね」
「大丈夫ですか?また具合でも?」

リーマス・ルーピンはたまに、体調を崩して授業を欠席することがある。
それを案じての言葉だったが、ルーピンは首を振った。

「大丈夫だよ。……ところでアスカ、君に会ったら聞きたいことがあったんだが」
「?」

ゆっくり、飛鳥は首を傾げた。
ルーピンは何度か開きかけた口を閉じ、意を決したように真っ直ぐ飛鳥を見た。

「君は、過去に―――」

だが、それも尻すぼみに消えた。
飛鳥の顔を直視した彼はすぐに言葉を濁し、咳払いをして即座に話題を変えた。

「いや、その。図書館にでも行くのかい?」
「ええ。返却に」

飛鳥はにこりと笑った。
相変わらずおっとりした雰囲気を崩さず、不自然なルーピンの言動を気にした様子もない。

「アスカは本が好きなのかな?」
「好きですよ。知識は人を助けますから」
「誰かの言葉かい?」

二人はどちらともなく歩き始めた。
飛鳥の腕に抱えられた分厚い本を見て、ルーピンは興味を持ったらしい。
受け答えしながら、飛鳥はおっとりとした表情を保ち続けていた。

「祖父の言葉です。英語は母国語ではないので、教え通りとりあえず本を読んでおけば良いかと思いまして」
「へぇ……。お祖父さんは知識人なんだね」
「そうですね。無知な人間を見下す人でした」

ほんの一滴、飛鳥の言葉にひやりとしたものが混じる。
ルーピンはぎくりとし、幼めの顔立ちを見下ろした。

「あら、うっかり口が滑りました。すみません、先生。忘れてください」

当の本人はすぐさま誤魔化し、口に手を当てて曖昧に微笑んだ。
鋭利な刃物のような口調は、もうどこにも感じられなかった。

「それでは、私はこれで失礼します。休暇くらい休んで下さいね、先生」

最後に「ワーカーホリックの日本人じゃないんですから」と冗談を付け足し、飛鳥はルーピンに背を向けた。


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