Girlish Maiden

□V
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週末。
チョウとの約束通り、飛鳥は1日をホグズミードで過ごした。
羽根ペンを購入し、ゾンコやハニーデュークスといった人気店を経由した後、二人は三本の箒へ来ていた。
バタービールを片手に会っていなかった期間の話をひとしきり喋り、彼女達は盛り上がった。

「マダム・パディフットの店がね、とっても可愛いのよ。アスカの趣味とは合わないかもしれないけど、一度見て欲しいの」
「可愛いって、どういう?」
「外装はピンク色で、フリルがたくさんあるの。季節に合わせて内装も変わるのよ。素敵でしょう?」

ピンク色は目が疲れそうだ、と飛鳥は思ったが口には出さなかった。
今日連れて行かなかった理由は、恐らく恋人同士で行く場所だからなのだろう。ホグワーツの女子生徒達が恋愛熱心であることを、飛鳥はよく知っていた。

「フリルは可愛いけど……、確かに私は進んで行かないところかもしれないわね」
「だからね、男の子を誘って行ってみたら?一度も浮いた噂を聞いたことがないんだもの。誰か意中の人でもいるの?」
「いないわよ」

即座に否定した飛鳥を、チョウが軽く睨む。
色恋沙汰好きな彼女がお気に召さない返事であることは分かっていたが、本当の事なので仕方がない。

「ホグワーツじゃなくても、ほら。日本とか、マグル界とか!」

全くあきらめない年下の友人に若干身を引き、飛鳥は苦笑する。まるでゴシップ新聞の記者にインタビューを受けているようだ。

「そうね。日本には、いるかもしれないわね」
「え!」

即座に食いついたチョウに、飛鳥は悪戯っぽく笑った。

「嘘よ。いないわ。いたらクリスマスも毎年帰ってるわよ。私がいつも居残り組なの、知ってるでしょ?」
「もう!もったいないわ、本当に!」
「そうは言ってもねぇ……」

飛鳥は祖国を思い浮かべながら、全く懐かしさを感じないことに気が付いていた。
“懐かしい”と思うほどの楽しい記憶がない――というのもあるが、滞在期間が圧倒的にイギリスの方が多いからだ。
飛鳥は長期休暇中も日本に帰らず、ロンドンの親戚の家に住んでいる。

「同学年の人はどうなの?アプローチされたりしないの?」
「たまにされるけど全部断ったわ。“イツミヤはお固い”って言われてるのをこの前聞いたわね」

至極楽しそうに話す飛鳥に対し、チョウはげんなりした表情でバタービールを煽った。
彼女にしてみれば、「恋愛のない学校生活なんて!」という心境なのだろう。だが、飛鳥自身は今の状況で満足していた。

「それに、5年生はちょっと忙しいのよ。OWL試験が待ち構えてるしね」
「それもそうね……」

チョウは少し残念そうにしていたが、納得した様子で頷いた。
店の外が薄暗くなってきているのを見て、飛鳥はバタービールの残りを飲み干した。
店の女主人であるマダム・ロスメルタに一声掛け、支払いを済ませた二人はホグワーツへの帰り道を辿ったのだった。


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