Girlish Maiden
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クィディッチの試合当日。
ハリーの箒を囲みながら朝食を頬張る選手たちに激励の言葉をかけ、飛鳥は端の席に座った。
職員のテーブルに近いその場所からは、大広間を見渡すことが出来る。
飛鳥はトーストを取り、ファイアボルトを見に来る他の寮の生徒を眺めながら紅茶に口をつけた。その際、ちらりとスリザリンのテーブルの方へ視線を送る。
案の定、彼らはファイアボルトを見て愕然としていた。
どうせまたマルフォイがちょっかいをかけてくるのだろう、と半ば投げやりなことを考える。程良い狐色のトーストをもそもそ食べていると、誰かが飛鳥の隣に座った。
「おはよう、アスカ」
「あら――おはよう、チョウ。久しぶりね」
チョウ・チャンだった。
少し興奮した表情で、彼女はにっこり笑った。
「今度のホグズミード、一緒に行かない?最近話せていなかったから……どうかしら」
「もちろん、いいわよ。それより、聞きたいことがあるんじゃない?」
チョウの目がわくわくしているのを見て、飛鳥はくすりと笑った。
今日の試合の相手はレイブンクローだが、そんなことはお構い無しとばかりにレイブンクローの生徒がファイアボルトの周りに群がっている。
さすがに選手のチョウは少し抵抗があるのか、「見に行きたいけど行きにくい」と言いたげなやきもきした表情が隠せていない。
「ねぇ、アスカ。あれ、本当にファイアボルト?」
「そうみたいよ。見に行ってみたら?」
「ううん、いいわ。試合になったら、飛んでいるところを間近で見れるもの」
「それもそうね」
今日の試合の特等席は間違いなく、箒が本領発揮する場面を常に近くで見れる選手達だろう。
「憧れだわ、ファイアボルト……。一度でいいから触ってみたいわ」
「ハリーなら快く了承するわよ。実際、さっきペネロピーが触らせてもらってたし」
ジャムの瓶を開け、トーストに塗りながら飛鳥が言う。その横でチョウはそわそわ髪を指に巻き付けた。
「うう、だめよ。今日は私達、敵同士なのよ」
「細かいところを気にするわねぇ」
「あなたは日本人にしては大雑把よね……」
呆れ顔で飛鳥を見て、チョウは残念そうに左右に首を振った。繊細さがないと言いたいのだろうが、飛鳥は全く気にしなかった。
「……あ」
不意に、チョウが短く声を上げた。
トーストを皿に置き、飛鳥もチョウと同じ方向を見た。
「……あらあら。彼も飽きないわね」
ドラコ・マルフォイと彼の子分二人がハリーの近くに寄り、何か言っていた。
やっぱり来た、と零しながらトーストの残りを口に放り込む。
そろそろ白米が懐かしいと飛鳥が別の方向へ思考を巡らせていると、グリフィンドールチームがどっと笑った。
「どうしたのかしら?」
「マルフォイがハリーにやり返されたんでしょう」
「まあ。ほんとに嫌な人ね!ハリーが何をしたって言うのかしら」
可愛らしく頬を膨らませ、チョウが憤慨した。飛鳥は肩をすくめ、興味もない様子である。
「犬猿の仲というものはどこにでも存在するでしょうよ。ところでチョウ、あなたちゃんと朝食は食べたの?さっきからファイアボルトの方ばかり見てるけど」
「だって、気になって仕方ないんだもの。ファイアボルトよ?速さで勝てるわけがないわ……」
先程までの興奮しきった様子はどこへ行ったのか、チョウの気分は目に見えて落ち込み始めた。
飛鳥はそんな彼女の前にシリアルの入った器を置き、スプーンを差し出した。
「空腹だから情緒不安定になるのよ。ほら、食べなさい」
「あなたって、たまに淡白なのか世話焼きなのか分からなくなるわ」
チョウは冗談めかして言ったが、飛鳥は笑わなかった。
頬杖を着き、宙を見つめながら彼女は呟いた。
「さあ、どっちかしらね……」
それはチョウの耳に届くことはなく、周りの話し声にかき消された。
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