Girlish Maiden

□T
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談話室でただひとり、一心不乱に机に向かう少女がいた。
寮生達の方を気にする素振りもなく、その少女は羽根ペンを走らせている。
そこだけ、切り取られた空間のようだった。
分厚い教科書や羊皮紙で埋め尽くされているため机の表面はほぼ見えず、今にも床に向かって紙が溢れ返りそうだ。
ガリガリという羽根ペンの音さえ聞こえてきそうなそこへ、飛鳥は自然と足を向けていた。

「ハーマイオニー」
「……あら、アスカ?」

ワンテンポ遅れて、栗色の頭が上がる。
彼女の隣の椅子を引き、飛鳥はそこへ座った。
ハーマイオニーは他の生徒とは比べ物にならない量の課題を抱えている。
寝る間も惜しんでずっと勉強しているのだろう。
明らかに顔がやつれ、目の下には隈ができていた。

「何か手伝いましょうか。スペルミスのチェックとか、本の返却とか。それとも紅茶でも入れる?」
「あ――いいわ、大丈夫よ。大丈夫だから気にしないで」

ハーマイオニーは自分に言い聞かせるようにそう言った。
ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャーはいつも行動を共にする三人組だった。
それがロンとハーマイオニーの間に起こった様々な出来事により、今は分裂してしまっている。
三人組の欠点は、仲違いした時に誰か一人が必ず孤独になってしまうことだ。
ハーマイオニーは同学年の女友達もいるが、あの二人のように親友と呼べるほどの間柄の子はいない。
ただでさえ余裕のない彼女に追い討ちをかけるようなこの状況は良いとは言えない。むしろ事態は悪い方だ。
険悪な関係までは至ってはいないようだが、張り詰めた糸のような彼女のことだ。何かの拍子にそれが切れて、いつ亀裂が入るか分からない。
よっぽどの事でない限り、男は男の味方をしたがるだろう。それは根本的な考え方が同性の方が合うので、仕方の無いことだ。

「……ね、ハーマイオニー。お節介でしょうけど、聞いて。あなたがしていることは忙しいなんてレベルのものじゃないし、大変なことだわ。だから、だからこそよ。そういう時こそ、周囲を上手く使うことって大事だと思わない?」
「……スリザリンみたいなことを言うのね」
「言葉にすれば狡猾さが目立つかもしれないわね。けど、こうも考えられない?――使えるものを全て使うことは、ベストを尽くすことと同義。常に全力を出すことは確かに凄いけれど、長くは続かないでしょう?」

ハーマイオニーの眉が訝しげに寄せられた。
飛鳥は微笑み、優しい口調で言葉を紡いだ。

「たまには少し息を吐いて、周りを見てみて。利用しろって言いたいわけじゃないわ?頼ってほしいだけよ」

ハリーとロンが近付いて来るのを認め、飛鳥は席を立った。
三人の絆は固い。
それを見てきた飛鳥は、それが切れてしまうことは何よりも惜しかった。

「じゃあ私は部屋に戻るわね。話に付き合ってくれてありがとう。邪魔してごめんなさいね」
「……ええ」

ほんの一瞬だけ、ハーマイオニーの瞳が揺らぐ。
だがそれはすぐに消え、再び古代ルーン語の文へと移っていった。
飛鳥は彼女に背を向け、ソファで興奮しているアンジェリーナの方へ去っていった。


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