夕闇イデア

□U
1ページ/2ページ

パァン、と音が鼓膜を震わせた。
それとほぼ同時に、血の匂いが凛桜の鼻腔をくすぐった。

「キール!」

手錠を外すために使っていた針金が落ち、キールも呻き声を上げてその場に崩れ落ちた。

「どうしたキール、続けろよ。手錠を外してェんだろ?」

弾は、彼女の腕を撃ち抜いていた。
痛みに苦悶の表情を浮かべながらも、キールはジンを睨んだ。

「まだ容疑者の段階で仲間を!」
「仲間かどうかを断ずるのはお前らではない。最後に1分だけ猶予をやろう」

ジンのその言葉が合図だった。
彼はよく獲物に1分、猶予を与える。
赤井の指示通り、凛桜は音もなく屋根へ飛んだ。
猫のように降り立ち、下へ向かって頷く。
ウォッカのカウントが10秒を切った。

「4、3、2、1、――ゼロ!」
「まずは貴様だ。バーボン!」

バチン、と音がした。
何かが当たる音がして、ジンの動揺する声が聞こえる。

「何だ!?」
「ライトが!」

作戦通り、赤井が視界を奪ったらしい。

「キール、バーボン!動くな!」
「バーボンがいない!逃げたわ!」

続いてベルモットの声。
下で赤井が扉を開いた。

「追え!」

だが、安室が出てくる様子はない。
出てきたのはウォッカだけだ。
気配を探ると、彼は倉庫の中で身を潜めていた。

「悪いな、キール。鼠の死骸を見せられなくて」

中ではまだ、ジンがキールを狙っている。

「だが、寂しがることはない。じきバーボンもお前の元に送ってやる。あばよ、キール――」
「ジン、待って!」

赫子を上から仕掛けて邪魔をしてやろうかと凛桜が物騒なことを考えた時、ベルモットがジンを止めた。

「撃ってはだめ。ラムからの命令よ」

誰かと電話をするベルモットの声と、ジンの舌打ちが響いた。

「キュラソーからメールが届いたそうよ。2人は関係なかった、と」
「記憶が戻ったのか」

凛桜は息を呑んだ。
――おかしい。
あの女は今、警察病院で厳重な監視の元にいるはずだ。
まさかそれを突破してきたのか。
訝しんだその時、ベルモットが言葉を続けた。

「だめよ。ラムの命令には続きが。――届いたメールが本当にキュラソーが送ったものか、確かめる必要があると」

(まさか――コナン君が、偽装したメールを?)

それなら納得がいく。
警察病院にいたなら、女の携帯は早々に奪われていたはずだ。
それにあれだけの事故で、携帯が無事だったはずがない。
おまけにあの高速道路の下は水だった。
ジンが誰かに電話し、アレを使う、準備しろと命令している。
だが名称がはっきりしない限り、組織に身を置いたことのない凛桜には何のことか分からない。

「アニキ、だめです逃げられました!」
「構わん。キールとバーボンは後回しだ。まずはキュラソーを奪還する」

ジンの電話の向こうで、女の声がキュラソーは病院を出たと言っていた。
恐らく、行き先は――。

「――東都水族館」
「ジン!あなたまさか、こうなることを予想してあの仕掛けを?」

どうやら、ジンという男は一筋縄ではいかないらしい。
赤井に大物と言わせるものがあるということだ。

「ウォッカ、行くぞ。車を回せ!」
「はい!」

ジンが外に出てきた。
屋根の上からそれを見下ろし、凛桜はじっくり彼を眺めた。
そして、彼らの行き先を赤井にメールで送り、ベルモットも出て行ったことを確認して地面に着地した。



.
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ