夕闇イデア

□V
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帰ってきた赤井を真正面からキッと睨みつけ、凛桜は荒々しく床を一度踏んだ。
ダンッとなかなか大きな音が響いたが、その場にいる人間は誰も何も言わなかった。
踏み抜かなかっただけましだと知っているからである。

「―――この私が!頑張って誤魔化したのに!何簡単にバラしてんの!?あと何!?じゃじゃ馬!?アァ!?」
「落ち着け、凛桜……」
「落ち着け!?落ち着いてられるか!」

ドスの効いた声だけ聞くと、最早チンピラを通り越して裏稼業の人間だ。
事実、裏社会に身を置いていたのだからそういった事には慣れているのだろうが。

「あー、心配して損した!」
「ほう?心配してくれたのか」
「してねーよ。空耳じゃないの?」

ケッとすっかり荒みきった態度で吐き捨て、凛桜はそっぽを向いた。
耳が若干赤くなっているところを見ると、どうやら口が滑ったらしい。

「あの……」
「シュウ、この子は一体……」

二人、ついていけていない人物がいた。
唖然とした表情で白髪の少女を見る、FBI捜査官のジョディ・スターリングとアンドレ・キャメルだった。
見知らぬ20歳前後の少女と赤井の組み合わせが奇妙なものに見えるのだろう。

「しばらく前から一緒に住んでいる凛桜だ。身体能力と五感が非常に優れている。何かあれば頼るといい」
「索敵も得意。よろしくねー」
「もしかしなくても、電話で言ってたじゃじゃ馬姫ってあなたのこと……?」

途端に眉をつり上げた凛桜を見て、ジョディはすぐに口を噤んだ。
だが、怒りの矛先は一貫して赤井に向いているようで、彼女はまた目の前の男を睨みつけた。

「あなた、バーボンに拘束されていたのよね?大丈夫だったの?」
「あの人、あんまり帰ってこなかったから。外には出られなかったけど、自由に暮らせたよ」
「そう……。何もされてないようで良かったわ。私はジョディ・スターリング。FBI捜査官よ。こちらも同じFBI捜査官のアンドレ・キャメル」
「よろしく」
「はーい、よろしく」

自己紹介が終わると、それまで続いていた話が再開された。
有希子を見送る時、2階から降りてきた凛桜によって中断されていたのである。
理由は言わずもがなだ。

「それで、どうして私達には話してくれなかったの?」
「前にも言っただろ?敵を騙すにはまず味方から。現に奴らはお前達に探りを入れてきたじゃないか。生きている事を話していたら、俺に変装したあの男に会った時にバレていたよ」

仲間にも変装のことは伝えていなかったのか、と凛桜は驚いた。
本当に最小限しかこの秘密は知らなかったようだ。

「凛桜さん、上で何してたの?」
「寝てた。昨日バイトが忙しかったからね。しばらく休んじゃったから、フルで入ったの」

そう言って欠伸を噛み殺す凛桜の髪には寝癖がついている。
つい先程まで熟睡していたのだろう、腕にシーツの跡が薄くついている。
凛桜とコナンの横で、FBI3人の話は続いていた。

「ボウヤのお陰でこちらの真意を奴に伝えられた上に、俺の居場所もうまくごまかせたようだがな」
「私との関係は明るみに出たけどね」
「その恨みってもしかして、あの時シュウがバーボンとの電話で言ってた……」

ジョディが何かを言いかけた時、チャイムの音が家に響いた。
何度も鳴らされるそれにコナンが玄関に駆ける。

「あーー!コナンくん!」
「何でお前がここにいるんだよ?」
「あ、いやちょっと……」

コナンがドアを開けると、元太、光彦、歩美の3人がいた。
途端に凛桜がぱっと顔を輝かせる。

「凛桜お姉さんもいる!」
「なんだか久しぶりですね!」
「うん、久しぶりだね。どうしたの?」
「昴さんに謎を解いてもらう為に来たんです!」

3人とは、安室に監禁された日に会ったのが最後だった。
あとで哀にも会いに行こうと凛桜は決めた。

「ねぇ、聞いて聞いて!阿笠博士が超能力使ったんだよ!」
「きっと何かインチキしてんだと思うけどよ……」
「昴さんなら解けると思って!」

歩美達は口々に赤井もとい、沖矢に訴える。
沖矢は首元の変声機に手をやり、スイッチを入れている。

「コナンくん、立ち話もなんだから中に入ってもらおうか」
「そ、そだね……」
「……隠そうよ、それ」

はしゃぎながら工藤邸に駆け込む3人を尻目に、凛桜が囁く。
沖矢は変声機を隠そうともせずにワイシャツのボタンを開けたままにしていた。
いくら子供だからといって油断しすぎではないだろうか。

「首元がどうにも苦しくてな……」
「あ、そう……」




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