夕闇イデア

□T
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喫茶店でのバイトが決まった。
壮年の夫婦が切り盛りしている店で、元々少なかった人手が輪をかけて足りていないらしい。
凛桜の他にアルバイトが二人いるのだが、その二人が今年で大学を卒業するため、従業員を増やしたいのだという。
ちなみに紅茶はできないが珈琲なら入れられる、と最初に言うとその場で採用が決まった。
店内には本格的な珈琲の匂いが漂っていたので言ってみたのだが、当たりだったようだ。
一から教えなければいけない初心者より、経験者の方が雇う側も楽というものである。

「凛桜ちゃん、だったね。喫茶店で働いたことは?」
「知り合いのお店で、何度か臨時で入ったことならあります」
「接客は慣れてるのかな?」
「はいー。大体のことは分かります」

のんびりした店主の雰囲気につられ、つい凛桜ものんびりと返事をしていた。
出された珈琲に口をつけてみると、ふわりと良い香りが鼻腔をくすぐった。

「やっぱり香りがいいですねぇ」
「あらー、ありがとう。ブラックで飲めるのねぇ」
「甘い物苦手なんですー」

にこにこほんわか笑っていると、いつの間にか豆の入った袋を渡されていた。
新しく仕入れてみたから試してみてくれ、と言うのである。
思わず目を輝かせたが、あまりの人の良さに心配になった。



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