無気力、無重力
□第1章
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【序章】
少女は何かが欠けていた。
長兄のように異常な力があるわけでもなく。
次兄のように表情がないわけでもなく。
その何かが分からず、ずっと首を傾げていた。
少女は考えた。
試してみた。
街に出て、自動販売機を動かしてみようとした。
家で、冷蔵庫を持ち上げてみようとした。
それらは、一ミリも動かなかったし、持ち上がらなかった。
次に、少女は鏡の前に立った。
いろんな表情を浮かべてみた。
鏡には、ちゃんと喜怒哀楽が示されていた。
それでも、彼女は自分が壊れていることを分かっていた。
欠陥、欠落していることを知っていた。
特別な力があるわけでなく。
感情を表に出せないわけでなく。
それでも少女は、『おかしかった』。
壊れ、欠陥があり、欠落していた。
おかしいな。と少女は思った。
何がおかしいのか、分からないのはおかしいな。と。
鏡の前で、首を傾げた。
そして、その疑問は1年ほどで解かれることとなる。