色の消えた青春の1ページ

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昼間とは打って変わり、不気味とも言える静けさに満ちた街で。
少女は一人、浮いていた。

風に遊ばれて乱れた髪で、顔は見えない。
彼女は――その存在だけでなく、物理的にも浮いていた。

まるで足元に見えない地面でもあるかのような、そんな立ち姿。
どこかぼうっとしていて、上の空のようにも見える。

――不意に、強い風が吹いた。

少女の髪がふわりとなびき、隠されていた顔があらわになった。

急に吹いた風に驚いたのか、大きな目がぱちりと瞬く。
その目を縁取る長い睫毛と、小さな鼻や唇。そして雪のように白い肌。

全体的に掴み所がなく、触れたら煙のように消えてしまいそうだ。

「優羅」

突然響いた声にも、彼女は驚かなかった。
つと視線を下にずらし、胡散臭い笑みをたたえた青年を見た。

「……平家」

露骨に嫌そうな顔をし、優羅と呼ばれた少女はぷいっとそっぽを向いた。

「エデンからの連絡です。明日の夕方、ある財閥の家へ行って下さい」
「……そ」
「今日の仕事(バイト)はどうでした?」
「別に……大したことなかった。弱いのばっかり」

つーんとそっけない態度だが、平家は別段気にしなかった。いつものことなのだ。自分限定だが。

二人は、“コードブレイカー”と呼ばれる異能者だった。
法では裁けない悪人、罪人を裁く、エデンという組織のいわば飼い犬。

優羅は息を吐いた。

軽く足元を蹴り、地上に降り立つ。三メートル以上は浮いていたはずだが、平家は動じなかった。

「帰る」
「はいはい。……いつになったら素直になってくれるんですかねぇ……」
「一生ない」

金茶の髪が、見せつけるかのようにひらりと揺れる。

普段は愛らしい顔を裏切らない性格の彼女が、自分の前では牙を剥く。
それが妙に楽しくて――平家はひっそりと笑った。
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