Girlish Maiden
□XIV
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そうして迎えたクリスマス当日。
飛鳥は普段薄くしかしない化粧を顔に施していた。
アイラインを引き、ドレスと同じ色のアイシャドウを瞼にのせる。睫毛も少しマスカラを塗り、そこで手を止めて顔を確かめた。
「……ねぇ、変じゃない?いつもここまでしないから不安だわ」
「大丈夫よ。アスカなら似合うわ」
隣で一心不乱に眉毛を描きながら、アンジェリーナが適当な返事を寄越した。
派手なメイクが映える彼女は何をしても似合うからいいけど、と飛鳥はルージュを唇に引きながら思った。
先にゆるく巻いていた髪をハーフアップにしてシニョンにし、髪飾りをぐさりと刺す。
姿見の前でくるりと回って確認してみたが、おかしなところは何もない。……はずだ。
「アスカ、アクセサリーを忘れてるわ」
ネックレスが置きざりにされていることに気付いたアンジェリーナがそれを持って飛鳥の後ろに立った。
付けてくれた友人に礼を言い、飛鳥はアンジェリーナの方を振り返った。
「あら、いいじゃない。渋い色だと思ったけど、案外よく似合うね。メイクも変じゃないわ。もっと派手でもいいくらい」
「これ以上は無理よ。あなたもとっても似合ってるわ、アンジェリーナ」
二人でにっこり笑い合い、少女達は揃って部屋を出た。
それぞれ相手が双子のどちらかなので、一緒に行動しておけば目印になっていいだろうとの考えからだった。
談話室へ下りていくと、既に準備を終えたグリフィンドール生で溢れ返っていた。
「アンジェリーナ!アスカ!」
陽気な声と共に、フレッドがアンジェリーナの目の前に現れた。
続いてジョージが飛鳥の前に立ち、少し戸惑った表情を浮かべた。
「……変?」
たちまち不安に陥った飛鳥を見て、アンジェリーナがジョージを睨んだ。
彼女も飛鳥同様いつもより化粧が濃いために、凄まじい迫力があった。
「いや、その……よく似合ってる。綺麗なドレスだ」
普段の彼はどこへ行ってしまったのだろう。飛鳥は少し動揺して、ジョージを伺った。
ヒールを履いているせいで、距離感が狂っている気がする。
「……行きましょうか」
何かが噛み合っていないような感覚を覚えながらも、飛鳥はそう言った。
ワインレッドの、シンプルなデザインのパーティドレス。裾が上品に広がり、ひらひらと揺れるのが楽しい。
お気に入りのそれを指先でなぞりながら、片手をジョージの腕にそっと置いた。
「楽しみましょ。そのために誘ってくれたんでしょう?」
「もちろん」
そこでようやく二人は顔を見合わせ、笑い合った。
調子を取り戻したジョージは積極的にリードし、飛鳥を大広間まで巧みにエスコートしてのけた。
「Shall we dance?」
「I'd love to」
右手が差し出される。
日本の映画を思い出し、飛鳥はにっこり笑ってそれに応えた。