Girlish Maiden
□XIV
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12月に入り、クリスマスが近づいてきていた。
校内は、三大魔法学校対抗試合の伝統であるダンスパーティの話題でもちきりだった。四年生以上が参加を許され、パートナーを誘って行くことができるのだ。
代表選手達はそれぞれのパートナーとダンスパーティの最初に踊ることになっている。
新学期の前に送られてくる用紙にパーティ用のドレスローブが記されていたので、四年生以上の学年はほぼ全員が持ってきていた。
飛鳥も一応持参していたが、「知り合いに誘われたら行こう」程度の軽い気持ちでいた。
いつだったか、「イツミヤはお固い」と言われたりしたので誘う人はそれほどいないだろうと踏んでいたのである。
そして飛鳥の考えは的中し、男子生徒からじろじろ見られるものの首を振られるという、なんとも残念な光景が彼女の行く先々で起こった。
白人が目立つ学校で、東洋人は珍しい。
ボーバトンやダームストラングの生徒から何回か誘いはあったが、飛鳥は全て断った。
理由は「良く知らない人とは一緒に踊れない」というものだったが、お固いと言われる所以はこういうところなのだろうと飛鳥自身も自覚を深めたのであった。
「ちょっと気になるからっていう軽い気持ちで誘えるなんて、尊敬するわ」
「それは、えーと……嫌味?」
「純粋に褒めてるの。私にはできないから」
中庭で飛鳥はチョウと話していた。
授業の空き時間がたまたま重なり、どこかでゆっくりしようと飛鳥が誘ったのである。
「チョウはセドリックと行くのよね?」
「ええ」
ほんのり頬を染め、チョウは頷いた。
どうやら上手くいっているらしいと解釈し、飛鳥は手に持ったかぼちゃジュースを一口飲んだ。
「アスカ、セドリックと親しかった?」
「授業が一緒になった時に話すくらいかしら。親しみやすいから、会話しやすいわよね」
セドリックの話題で盛り上がっていた時、誰かが飛鳥の肩を叩いた。
「ごめん、ちょっといいかな?」
ボーバトンの男子生徒だった。
背が高く好青年という感じの生徒だったが、飛鳥は露骨に眉を寄せて肩に置かれた手を見た。
「……なにか?」
「僕とダンスパーティに行ってくれないか?アスカ」
「お断りします」
満面の笑みの申し込みをにべもなく断った飛鳥の隣で、チョウが呆れた様子で天を仰いだ。
「君はまだ、誰とも行く約束をしていないんだろう?」
「だからといって、それがあなたと行く理由にはならないわ。そろそろ諦めてくれる?」
少し冷たく言い放ち、飛鳥はチョウと連れ立ってその場を離れようとした。
しかし。
「おやおや、選り好みできる立場かい?イツミヤ」
気取った声と共に、マルフォイが現れた。
あまり良くなかった飛鳥の気分はさらに下がり、ほとんど睨みつけるようにしてマルフォイの方を見た。
彼の後ろには当然のようにクラッブとゴイルが控え、他のスリザリン生も何人かいた。
どうせ『穢れた血』がどうとか言うのだろう。そう思っていた飛鳥の耳に、思いがけない言葉が飛び込んだ。
「聞くところによるとイツミヤ家は陰陽師を排出する家らしいじゃないか。そんな家の娘が、英国で、何をしているんだろうねぇ?」
マルフォイは廊下中に聞こえるほどの声で、飛鳥の素性を言いふらした。
「あら……、よく調べたのね。情報が少なくて苦労したでしょう、マルフォイ?それともパパの部下がわざわざ調べてくれたのかしら?」
『わざわざ』の部分を強調し、飛鳥は冷ややかに言った。
「陰陽師の適正もなく、家を追い出されたんだろう?日本じゃ陰陽師と魔法界は対立してる!日本の魔法学校に通うわけにもいかなかったってわけだ」
「アスカ、行きましょう。相手することないわよ」
チョウが袖を引っ張る。
それをやんわりと離し、飛鳥はくすくす笑った。
──随分と面白い冗談を言ってくれたものだ。
「ピーチクパーチク言える立場がとってもお好きなのね、お坊ちゃん?年上には敬意を払うようにって、パパに習わなかったの?随分と高潔なお父上をお持ちなのね」
何事かと人が集まってきていた。
何か言い返そうとしているマルフォイににこりと笑い、飛鳥は最後に痛烈な一言を置いていった。
「人のことを貶めたいなら、出直してらっしゃい。このクソガキ」