Girlish Maiden

□XI
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飛鳥の懸念は的中した。

ムーディ教授は最初の授業で、許されざる呪文を生徒達に披露してみせたのである。

『服従の呪文』『磔の呪文』そして『死の呪い』――違法とされ、六年生になるまでは生徒に見せてはならないとされているものだ。
彼はそれを、六年生はおろかその下の学年にまで見せるのだという。飛鳥がそのことを知ったのは一週間が終わる頃だったが、その時にはムーディの人気は良い方向に上がっていた。

そしてさらに、ムーディはマルフォイをイタチに変えるということまでやってのけた。

バーンと大きな音がし、一人玄関ホールへ向かっていた飛鳥はぎょっとした。
急いで目的地に向かう途中で、もう一度同じ音が響く。

「鼻持ちならない、臆病で、下劣な行為だ……」

ムーディが杖を振っていた。
飛鳥はその光景に思わず階段の中ほどで足を止め、玄関ホールを見下ろした。

「二度と――こんな――ことは――するな――」

白いケナガイタチが、石畳の床に叩きつけられては跳ね上がっている。
ムーディはその動物に向かって怒鳴り、イタチは苦痛に鳴き声を上げていた。
玄関ホールは恐怖で静まり返り、全員が動きを止めていた。

「ムーディ先生!」

飛鳥の後ろから、マクゴナガル教授が階段を下りてくる。

「やあ、マクゴナガル先生」

腕に大量の本を抱えたマクゴナガルは唖然としてイタチを見ている。

「な――何をなさっているのですか?」
「教育だ」

ムーディは何のことなく平然と答えた。
マクゴナガル教授は絶句し、腕から本を取り落とした。

「教――ムーディ、それは生徒なのですか?」
「さよう!」
「そんな!」

マクゴナガルは叫ぶと、かろうじてまだ持っていた数冊の本を近くにいた飛鳥に押し付け、階段を駆け下りた。
杖を取り出して振ると大きな音を立て、ケナガイタチはマルフォイに姿を変えた。
飛鳥はようやく我に返り、階段に落ちて散らばった本を集めにかかった。
マクゴナガル教授はムーディに注意した後、困り果てた様子で額を押さえた。

「マクゴナガル先生」

本を渡しに行けば、マクゴナガル教授は疲れた表情でそれを受け取った。

「ああ、ありがとうございます、イツミヤ。……なぜムーディを止めなかったのです?」
「そう言われましても……、私が来た時には既にマルフォイはイタチになっていましたので……」

予想外のお咎めに、飛鳥は焦りながら言い訳した。
だが、一介の生徒に「ムーディを止めろ」とはあまりにも酷な話である。マクゴナガル教授もすぐに発言を訂正した。

「いえ、あなたは何も悪くありません。夕食に行きなさい、イツミヤ。引き留めてしまいましたね」
「いいえ。大丈夫です。……それより、運ぶのをお手伝いしましょうか」

一度全部渡しておいて何だが、と飛鳥はマクゴナガルに申し出る。しかし「心配せずとも大丈夫です」と返され、断られたのだった。

「気持ちだけ頂いておきます。ああ、それと。ムーディ先生を止めることは出来なくとも、ウィーズリーの双子を落ち着かせることはできますね?」
「……なぜ私に言うんです…………」
「適任だからです。十月には他校も来るのです。良いですか。せめて最低限、お行儀よくすることを教え込みなさい。日本はマナーの国なのでしょう?」
「授業中に正座でもさせていれば良いのではないでしょうか……」

顔を引き攣らせ、飛鳥は嫌な役をどうにか回避しようと試みた。
だが説得も虚しく、ほとんど強引に押し付けられてしまったのであった。
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