夕闇イデア
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「凛桜」
事務所横の階段を下り、蓮を連れて歩き出した凛桜に声がかけられた。
目立たない場所に車を停め、煙草を片手に佇む赤井の姿があった。
横目で彼を捉え、凛桜は立ち止まった。
「行くのか」
「……どうせ全部聞いてたんでしょ。コナン君が1人で戻ってくるわけないし」
ニット帽を被り、黒一色の服装の彼の姿に凛桜は呆れる。
そう簡単に姿を現していい立場ではないというのに。
「お前はいつも、1人で出ていくな」
「…………」
「終わったら帰ってこい。弟も一緒に住めばいい。凛桜、お前はとっくにこちらに染まっている」
「無理だよ」
赤井の鋭い目線を流し、凛桜は冷たく言い捨てた。
そして、人気のない方向へ蓮と共に歩を進めていく。
「……あの男と住んでたのかよ?」
「そうだよ」
「一般人じゃねぇだろ。しかも喰種ってばらしたのか?」
「うん」
すたすたと怪我などしていないような足取りで凛桜は先を行く。
それを追いかけながら、蓮は赤井を振り返った。
「……なあ、姉貴」
「なに」
凛桜は短い返事しかしない。
顔を見られたくないのか、蓮を引き離すようにどんどん先へ進んでいる。
「俺を喰ったら、あいつらに簡単に勝てるだろ」
「……何言ってんの、お前」
ぎろりと蓮を睨み、凛桜は立ち止まった。
蓮は先程までの剣呑さを忘れたかのように、ひどく真面目な顔をしていた。
「俺じゃ、あの人数には勝てない。けど、万全な状態のあんたなら簡単だろ。ちょっと齧るだけでも違うはずだ。その怪我治してからじゃないと、2人がかりでもあいつらの相手はきつい」
形勢は圧倒的に不利だ。
凛桜も蓮も怪我をしている上、相手はほぼ無傷だ。
数も向こうの方が多い。
地の利は凛桜にあるが、それを含めても姉弟は追い込まれている。
それは凛桜にも充分分かっていた。
「それに俺は、もう……」
「……蓮、屈んで」
諦めたように息を吐き、凛桜は蓮の肩口に歯を立てた。
「……不味い」
「喰種が美味いわけないだろ……ッ」
1口食べた後、凛桜はすぐに離れた。
血のついた口元を拭い、再び歩き出す。
脂汗をかきながら、蓮も立ち上がった。
「弟を捕食か。生き汚い奴だな、SSレート喰種のリオウ」
2人の前方に、既に展開したクインケを持った男達が現れた。
背後からも捜査官が迫ってくる。
「……前に4人、後ろに4人」
「つけられてたか。……うーん、まだまだ本調子じゃないんだけどな」
徐々に傷が治っていく気配はあるが、完治には程遠い。
捜査官がクインケを構える。
――その場はたちまち、戦場になった。
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