夕闇イデア

□T
2ページ/3ページ

事が起きたのは、遡ること3日前。
その日、凛桜は蘭と園子に誘われ、ショッピングに出かけていた。
場所は米花デパート。
ファッションに疎い凛桜を女子高生2人が次々着せ替え着せ替え、ああでもないこうでもないと言いながら服を選んでいた。
これがいわゆる、“女子の買い物”かと凛桜は少々ずれた感動を覚えていた。

「凛桜さんは雰囲気が大人っぽいけど、顔はちょっと童顔だから何でも似合いそうですよね」
「甘めで攻めてもシックで攻めてもイケるわね。セクシー系は……どうかしら?」
「私、色気ないし背低いし胸もそんなにないからセクシー系は無理があると思うけど」
「そんなん化粧でどうにでもなるのよ!これも着てみて!」

園子が凛桜に服を数着渡し、試着室に押し込んだ。
言われるがままに着替えるのを何度か繰り返し、結局その店では凛桜が気に入ったものを2着購入した。
紙袋を両手に持ち、へとへとになった凛桜と対称的に学生2人は元気だった。

「ちょっと私お手洗い行ってくるね」
「あ、私も行くわ!凛桜さんはここで待ってる?」
「うん、そうするよ」

凛桜が荷物を置いてベンチに座った。





「……それが、凛桜さんを見た最後でした」

少し震える声で、蘭が言った。
彼女の横には園子が座り、蘭の手を握っている。
いつもの明るさはなりを潜め、2人とも泣きそうな顔をしていた。
少し離れた隙に、一緒にいた知人が忽然と消え、行方知らずになったのだ。
無理もない。
コナンに「凛桜さんが消えた時の状況を詳しく話してほしい」と言われ、彼女たちは工藤邸に来ていた。
蘭と園子の向かいにはコナンと沖矢がいる。
彼らは難しい顔をして考え込んでいた。

「それまで、彼女に何か変わったことはありませんでしたか?警戒していたとか、視線をあちこちやっていたとか」
「いえ……、全く。それまで3人一緒にいましたし、ずっとおしゃべりしていました」
「落ち着きがなかったらすぐに気がついたと思うわよ」

凛桜は索敵が得意だ。
気配や音を感知するので、彼女が怪しい行動をわざわざするはずがない。
正体を知られたくない相手といるなら、尚更だ。
だが、妙な噂の他に手がかりが全くないのだ。
あやふやなものを調べるよりも、先に少女達から話を聞くことが先決だった。
噂の方は安室がバイトが終わり次第調査を始めると言っていたので、そちらに任せたというのもあるが。

「凛桜さんが持ってた荷物は、その場に残ってたんだよね?」
「ええ。私が預かったから、今日持ってきたけど……」

大きめの紙袋が3つと、小さな鞄がひとつ。
凛桜は携帯まで置いて消えたので、連絡の取りようもなかったのだった。
蘭がそれらを差し出すと、沖矢は躊躇いなく入っていたものを全て机の上に広げた。

「……紙袋の中は服と靴だけですか」
「鞄の方は携帯とペン、手帳だね」

コナンが手帳をパラパラめくるが、大したことは書かれていない。
バイトの予定が書き込まれている程度だった。

「……ん?」
「何かありましたか、コナン君」

手帳をじっと見て、コナンが眉を寄せた。

「昴さん、これって……」

少年の手元を覗き込み、沖矢はうっすらと目を開いた。
たちまち表情が険しくなり、彼は立ち上がった。

「蘭さん、園子さん。ありがとうございました」
「何か分かったんですか?」
「いえ、ヒントらしきものしか見つかりませんでしたが……」
「それをこれから確かめに行くんだ」

少女達の表情が少し明るくなった。
何も進展がなかったことを思うと、沖矢の言葉は一筋の光のようだったのだろう。
ほっとしたのか、2人は互いを支えるようにして帰って行った。

「……さて」
「何か、分かるといいんだけど……」

コナンと沖矢も外に出た。
目指すは、4丁目。
凛桜のバイト先の喫茶店だ。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ