夕闇イデア

□W
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墜落して終わりかと思いきや、組織はしぶとかった。
車軸を集中的に狙って攻撃を再開させたのである。
ふらつきながらも執拗なそれに、凛桜は顔をしかめた。

「イタチの最後っ屁かよ……。しつこいなぁ」

爆発音が中心から聞こえ、観覧車が大きく揺れた。
床が崩壊し、飲み込まれる。

「赤井さっ……!」

コナンは、と気配を探るも近くにいない。
凛桜がへたっている間にどこかへ行ってしまったらしい。
轟音と共に、凛桜も赤井も観覧車の下へ落ちていった。
何かが外れたような嫌な感触の後で、片側の観覧車が傾いた。
そのまま、巨大な輪はゆっくりと転がっていく。
凛桜は瓦礫の中でもがいた。
腕力にものを言わせてコンクリートやら鉄筋やらを跳ね飛ばし、立ち上がる。
よろよろと歩くが、腹部に違和感を感じて見下ろした。

「わお」

腹から、鉄筋が突き出ていた。
落ちた時に運悪く下にあったのだろう。
人間に刺されたくらいでは傷つかないが、自分が落ちた時の重力と勢いで刺さってしまったようだ。

「……穴、空いちゃったな」

抜く気力も湧かず、そのまま気配を辿って歩き続ける。
ゴンドラのある方向へ行くと、安室がコナンを投げ飛ばしていた。

「……ごめんね、ちょっと……動けないわ……」

あとは彼らがなんとかしてくれるのだろう。
詰めていた息を吐き、凛桜は座り込んだ。
特に痛みは感じなかった。
痛すぎるせいとか、出血が多いせいとかではなく。
痛覚がほとんど残っていないだけだった。
痛みを忘れ、傷を忘れた。
だが、血は必ず流れていく。
痛みも傷も血も当たり前のことなのに、とひとりごちる。

「血しか残らないなぁ……」

瓦礫だらけの床に仰向けになり、目を閉じた。
久しぶりの怪我に、凛桜はなんだか笑えてきた。

「ははは、まさかクインケとか赫子じゃなくて鉄筋ごときにやられるとは。あはははは」

笑うとさらに血が出たが、凛桜は全く気にしなかった。

そうしているうちに、観覧車は止まったらしい。
転がる音が消え、安室の足音が凛桜の方へ近付いてきた。

「凛桜さん!?」
「おー、やっほー」
「やっほーじゃないですよ!大怪我じゃないですか!」
「うん、ちょっと起き上がるの手伝ってくれる?もうへろへろ」

2回にわたる赫子の全力解放で、体力は残らず使い切った。
安室に背を支えられ、上体を起こす。
咳き込むと、口から血が出た。
肩を借りて立ち上がろうとすると、安室は凛桜の膝裏に腕を差し込んだ。

「うわっ、ちょ」
「重病人は黙ってください。何歩こうとしているんですか」
「ぎゃああああ下ろせ!恥ずかしい!無理!」

手負いといえど、喰種である。
力は人間の倍以上ある。
安室が暴れる凛桜を抑え込もうとするが、彼女はそう簡単に制圧できるような相手ではなかった。
抱き上げられた状態から身をよじって逃れ、着地しようとしたが失敗し、べしゃっと床に落ちた。

「うぎゃ」
「大人しくしてくださいよ!」
「嫌だ!!」




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