夕闇イデア

□W
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「あはははうっそでしょ」
「くっそォ!なんとかしねーと!」

コナンを通路の右側に寄せ、凛桜は彼を守れるように左――外側を走った。
物陰に隠れながら移動するが、弾丸は無差別にあちこちを狙っている。
弾を掻い潜るようにして一旦柱の裏に潜り込んだ2人は、息を整えた。

「動いたらすぐに狙われる……!」
「まずいね。向こうの方が断然有利だ」

外を睨むが、どうにもできない。
機体に飛び移り、彼らを無効化できれば話は早いのだが。

「誰かが狙われている……!」
「攻撃が一点に集中した……」

銃声は同じ高さを一直線に移動している。
誰かが走って逃げているのだろう。

「動くなら今だよ」
「ああ!」

2人は同時に走った。
暫く移動したところで、やがて攻撃は止まった。

「弾が切れたかな……?」
「赤井さーん!安室さーーん!!」
「こっちだ!」

あちこちが崩れ、ボロボロの中を進む。
赤井の声がした方を目指し、凛桜とコナンは駆けた。

「2人とも、怪我はないか」
「うん!」
「もち」
「隠れるんだ。まだローター音が聞こえる」

床が大きく断絶した向こう側に、ライフルを持った赤井が立っていた。

「安室さんは?」
「分からん。だが、直接的な攻撃を仕掛けてきたということは爆弾の解除に成功したということだ」
「あとは、奴らをどうやって――」

知った足音に凛桜は顔を上げた。
ちょうどその時、上の階から安室がこちらに向かって叫ぶ。

「そのライフルは飾りですか!」
「安室さん!」
「反撃の方法はないのか、FBI!」
「あるにはあるが、暗視スコープがお釈迦になってしまってな。使えるのは予備で持っていたこの通常のスコープのみ。これじゃあどでかい鉄の闇夜のカラスは落とせんよ」
「…………私……届くかもしれない」

凛桜が呟いた。
コナンがはっとし、彼女を見た。
彼は赫子を見ている。
その頑丈さと長さを知っている。

「けど――どこを狙えばいい?悪いけど、ちょっとガス欠。全盛期ならあんなの余裕で落とせたけど、今の私じゃ一点集中かけるしかない」
「ローターの結合部を狙えば、恐らく。……何か策でもあるのか、凛桜?」

問いかけられるが、簡潔に説明ができない。
凛桜は肩をすくめた。

「最終兵器持ってんの」
「けど、結合部なんて見えなかったよ!?」
「正面を向き合っては無理だ。なんとか奴の姿勢を崩し、なおかつローター周辺を5秒照らすことができれば……」
「じゃあ私があれの姿勢を崩す。赤井さんは結合部狙ってよ」
「照らすことはできそうだけど、大体の形が分からないとローター周辺には……」

凛桜は服の裾を持ち上げ、端で結んだ。
これは有希子に買ってもらった服だ。
既にあちこち汚れているが、赫子で破きたくはなかった。
腰部分をさらけ出していると、再び弾丸の雨が観覧車に降り注いだ。

「まさか奴ら、車軸を爆発させて!」
「この観覧車ごと崩壊させるつもりか……!」
「クッソォ!撃ってくる方向は分かるのに!ローターがどこにあるのか分からない!」
「――大体の形が分かればいいんだったよな!?」

後方から、安室の声が飛ぶ。
彼はライフルケースに爆弾を詰め込み、持ち上げたところだった。

「見逃すなよ!!」

安室が爆弾入りのケースを投げる。
それと同時に、凛桜は大きく息を吸った。

「――――――――」

今までとは比にならない音を立て、赫眼に変わる。
機体との距離は遠い。
本気を出さなければ、届かないだろう。
壁の枠を掴み、その眼を見開いた。

――瞬間、爆弾が爆発した。

「覚悟しろ、クソ野郎――……!」

にぃっと笑い、赫子を勢いよく伸ばした。
絡みつくと同時に、コナンの蹴ったサッカーボールが機体にぶつかり、大きく打ち上がった。

「行っけぇぇぇぇぇぇ!!!」

凛桜は赫子を操り、姿勢を崩させる。
気を抜けば持っていかれそうになり、壁にぐっと指を立てた。

「く……ッ」

鮮やかな光を撒き散らし、ボールから花火が放たれた。
細く、だが強く伸ばした赫子が徐々に崩れていく。

「―――落ちろ」

赤井がライフルに指をかける。
機体を下へ引っ張っていた赫子を解き、凛桜は目眩のする頭を押さえた。
片翼から黒煙を上げ、機体がさらに姿勢を崩した。
凛桜はそれを見届け、その場に膝をついた。

「やったか!?」
「よし!」

ぜえぜえ息を吐く凛桜の後ろで、男達は喜んでいる。
震える手で結んでいた服を元に戻し、外を見た。

「大丈夫、凛桜さん!?」
「だいじょばない……。燃料切れ……」

ゲホゲホ咳き込む背に、赤井と安室の視線を感じる。

「ったく……こればっかりは隠し通すつもりだったのに」

壁を頼りに立ち上がり、振り返る。
赫眼のままだったことに気付き、凛桜はすぐに元に戻した。



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