夕闇イデア

□U
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「ただいまー」
「おお、おかえり」

コナンに鍵を開けてもらい、凛桜は久しぶりに工藤邸へ帰宅した。
リビングへ向かうと沖矢が待っていた。
優雅な仕草で紅茶を飲んでいるが、声は別人のものだ。

「君が凛桜ちゃんだね。私は工藤優作、息子が世話になっているようだね」
「いえー、こちらこそ。住まわせてもらって助かってます」

有希子とはほぼ毎週末に会っていたが、優作とは初対面だった。
ぺこりと頭を下げたが、顔は沖矢昴なので激しい違和感がある。

「凛桜さん、手伝ってくれる?」
「いいよ。何すればいい?」
「カメラを玄関と廊下とここに設置するんだけど……」
「カメラ?」

コナンに袖を引っ張られ、凛桜は彼を見下ろした。
快く承諾したが、その内容に首を傾げる。

「変声機を首に巻いて使えないから、マスクに仕込むんだ。マスクを取れとか答えにくい質問をされた時は俺がスピーカーを通してしゃべる手筈になってる」
「なるほどね。様子を逐一見ておきたいから、カメラをあちこちに仕込むと」

机に置かれた10台もの小さなカメラを見下ろす。
リビングを見渡し、隠せそうな場所を探した。

「玄関に2台、廊下に3台、この部屋には5台置く。死角ができないようにしてほしいんだ。凛桜さん、得意だろ?」
「まぁ、得意だけど……。カメラが映せる範囲を見ないとどうにも」

1台を取り上げ、電源を入れる。
部屋の端に寄って試しに映してみると、意外と広範囲が画面に収まった。

「ほうほう。じゃあ置いていくよ」
「ああ。モニターで見とくから、好きにやってくれ」

隠しすぎると上手く映らず、映りを優先させすぎるとカメラが目立ってしまう。
凛桜はコナンの指示を受けながら、微調整を重ねた。

「阿笠博士に超小型のカメラとか作ってもらえなかったの?背景と同化できるようなやつ……」
「時間がなかったんだよ。それに、灰原には何も言ってねェしな」

コナンの細かい注文に辟易してきた凛桜がぼやく。
優作はというと、その様子を微笑ましそうに眺めていた。
そして、やっと5台のカメラを設置し終えた時には夕方に近い時間になっていた。
急いで残りの5台も廊下と玄関に取り付け、他の準備も進める。
コナンと優作は作戦の再確認をし、凛桜は玄関にある自分とコナンの靴を隠した。
カメラがすべて問題なく動いていることを見て回り、準備が終わると夜を待った。
凛桜とコナンは2階に行き、安室が来るまで談笑して過ごしていた。

「凛桜さんが脱出したこと、バレてないんだよな?」
「たぶんね。中に入られてたら終わりだけど、小娘一人が玄関以外のどこから出るんだって高を括ってるでしょ」
「何階にいたんだよ?」

外が見える窓際に寄りかかり、凛桜はにやっと笑った。

「10階。今度一緒に飛び降りてみる?」
「遠慮しとく……」
「残念」

さすが喰種、とコナンが呆れる。
凛桜は詮索好きの彼があまり突っ込んだことを聞いてこないことが気になった。

「あんまり聞いてこないね、私のこと」
「聞いて欲しくねーんだろ?凛桜さん謎は多いけど、いつも俺達のこと真っ先に守ろうとしてくれるから信用してるよ」
「あ、うん……。ありがとう。絶対助けてあげるから、私の前では安心して無茶していいよ」

コナンと安室の決定的な違いがこれだ。
コナンは凛桜が何があっても裏切らないことをもう分かっているが、安室はそれを知らない。
凛桜の大切なものが何なのかを分かっていないから、執拗に探ろうとするのだ。

「安室さんに何か言われたんだろ?」

少し表情を陰らせた凛桜を見て、コナンが鋭く言った。

「……まぁね。ちょっとだけ話したよ、私のこと。食べ物を吐き出してもすぐにバレるし、この前の一件もあったし、私の異常性が知られるのは時間の問題だったから」
「話したって、どこまで?」
「人間と同じ食事はできないことと、筋力のふたつ」
「圧倒的に凛桜さんの方が強いのに、力にモノ言わせて脱出しようとは思わなかったの?」

凛桜は答えなかった。
その代わりに、窓の外を指して少年に告げた。

「お客さんだよ。――車が数台、向かってきてる」



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