夕闇イデア

□U
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ドン、という大きな音で凛桜は目を覚ました。
音は隣の部屋からだ。
すぐに跳ね起きたが、ぐらりと眩暈に襲われて布団に崩れ落ちる。

「あ〜……おなかすいた……」

さすがにそろそろ限界らしい。
頭を抑え、そろそろと上体を起こす。
扉を開けて廊下に出ると、ちょうど2階に上がってきた一行と鉢合わせた。

「凛桜さん、大丈夫ですか?」
「今の音は、君の寝ていた部屋じゃないのか?」
「ん、大丈夫。音は隣からだよ」

蘭と高梨に返事をし、なぜか針金を持っている安室を目で追う。
隣の部屋の鍵穴に針金を二本挿し込み、何度かいじると鍵は音を立てて簡単に解錠された。

「開いたようですね」
「すごーい、安室さん!」
「まるで怪盗キッド!」

凛桜は呆れたが、少女達ははしゃいだ。

「セキュリティ会社の知り合いがいましてね。内緒でコツを聞いたことがあるんです」
「何かを探る探偵にはありがてぇスキルだな……」

(普通に犯罪では!?)

そこは追及しないのか、元刑事。
安室は早速扉を開けようとしたが、僅かに開いただけでそれ以上は開かない。

「ん?何かが扉をふさいで……」

死体である。
むっとした空気と共に流れてきた血の香りに、凛桜は眉をひそめる。
石栗の足の向こうから、コナンの姿が見えた。
開けるな、と彼は険しい顔で叫んだ。
その剣幕に安室が顔色を変える。

「コ…コナン君?」
「開けちゃダメだよ……。ドアをふさいでるの、死体だから」
「え?」

***

すぐに警察が訪れ、現場検証が行われた。
凛桜はソファに座り、彼女以外の人間は全員キッチンの机に集まっていた。それを眺めながら、凛桜は携帯をいじっていた。

『またもや殺人事件発生、あの子は一体どうなっているんでしょうか』

もう携帯を持っていることを隠す理由がないので、堂々と使っている。
ベルツリー急行の帰り、沖矢と合流した時に返そうとしたのだが「お前にやる」と言われたのだ。
なくても不便はないが、暇つぶしにはもってこいの道具である。沖矢にメールを送ると、すぐに返事が返ってきた。

『彼がいると眠りの小五郎は難しいと思うが?』

(……眠りの小五郎?)

なんだそれ、と聞き返そうとした時、凛桜の名前が呼ばれた。

「だいたい、あの凛桜って子が一番アリバイがないじゃないか!?」
「……ええ?」

顔を上げると、高梨が凛桜を指していた。
全員がこちらを見ている状況に内心、頭を抱えた。

「あー……、アリバイ。ないね」

2階に行った時には既に死んでいましたよ、なんて言えるはずもなく、ぽつりと言う。
凛桜は昼食の後はずっと部屋にいた。殺す時間はたっぷりあった、というわけである。

「動機もないけどね」
「でも、石栗に殺人サーブだとか言われて怒ってたじゃないか?」
「あの程度で人を殺してたら私は今頃捕まってるね。動機にはならないんじゃない?」

そう言えば、高梨は気まずそうに目を逸らした。罪を擦り付けたような気分になったのだろう。
どうやら自分にも容疑の矛先が向いているらしいと凛桜は立ち上がった。
理由もなく殺すなどリスキーなことをするわけないだろうと声を大にして言いたいくらいである。
テーブルに近付き、刑事を見下ろす。

「なんなら私の事情聴取もします?私もコナンくんが隣で寝てたこと、知ってたけどね」
「い、いえ!大丈夫です」

放っておいても事件は解決するだろうとソファに戻る。空腹で貧血気味なのか、立っていても少しふらついた。

「凛桜さん、具合悪そう……」
「これはただの貧血。大丈夫だよ」
「ちゃんと食べて下さいね。お昼も少なかったし……」

全部吐き出したことを申し訳なく思うが、出してしまったものは仕方ない。
凛桜の身体では、栄養も吸収できないのだから。
見境なく人を襲うほど参ってはいないが、このままでは精神にも影響を来たすだろう。
そろそろ、重い腰を上げる時だ。




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