夕闇イデア

□U
2ページ/3ページ

凛桜は自分の白い色が嫌いである。
髪を見れば忌まわしい記憶が呼び覚まされるからだ。
喰種対策局――白鳩の人間も白い服を着ていたのも、原因のひとつ。
白髪を見て驚いた顔をする人間も、かわいそうにと同情してくる人間も、綺麗だと褒めてくる人間も苦手だった。
“向こう”では白髪はちらほらいたせいか、喰種たちには何も言われたことがなかった。
こちらに来てから、やけに髪について話題にされた。
驚くのは分かる。だが、

――かわいそう?
そんなことは自分が決めることだ、他者が勝手に言うことではない。

――綺麗?
こんなにも汚いのに、何を言っているのか。

この白髪は、大きな傷痕の象徴だ。
そんなものが、綺麗であるわけがない。
綺麗であってはいけない。
だから彼女は、白い服を持たない。

(……だけど、ヤモリさんは白いスーツが好きだった)

拷問を嫌い、遠ざけた凛桜に対し、彼は受け入れていた。
残虐な方法を見つけては試し、同胞を喰らい、強くなっていった。
それだけは、ヤモリと凛桜は相容れない。

座席に座り、ぼうっと外を眺める。
一定の感覚で揺れる列車の中、欠伸を咬み殺した。
沖矢から頼まれている哀の警護と、計画のために凛桜は6号車にいた。
コナンとは作戦を共有しているので、凛桜が言わずとも彼から「凛桜さんも俺たちと一緒の部屋に行こうよ」と先に誘ってきたのである。

「…寝てないの?」
「そう言う哀ちゃんは風邪?」

マスクをした哀が隣に座る。
たまに咳をしているが、見た目は元気そうだ。

「ええ…誰かさんに移されたのよ」
「オメー、しつけぇぞ……」

哀がコナンの方を軽く睨むと、彼も哀をじとりと見返した。
相変わらず仲が良い。

「それで?その欠伸は?」

頬杖をついて2人を見ていると、せっかく逸らした話題をまた振られていた。

「不眠症なんだよ。電車なんて、寝不足は特に眠くなる眠くなる……だめだほんとに眠い」

凛桜がこめかみをぐりぐりと押して眠気を飛ばそうとしていると、部屋の扉がノックされた。

「はい、何でしょう?」

阿笠博士が応答するが、返事がない。
扉を開けても人影はなかった。

「おや?誰もおらんのォ……」
「手紙が落ちてる」
「ん〜……、噂の推理クイズ?」

伸びをして立ち上がった。
文字を見れば目も覚めるだろうと思ったのである。
どうやら本当に推理クイズの手紙だったらしく、子供たちがわっとはしゃいだ。

「あら、あなたも行くの?」
「眠気覚ましに丁度いいと思って」
「仮眠を取っててもいいんじゃない?」
「せっかく来たのに仮眠はないよ……」

叩き起されてまで頑張って来たのだ。
それに探偵団でまとまっているとはいえ、子供たちだけで行動させるのは警護のためにも避けたい。

「“おめでとう、あなたは探偵役に選ばれました!10分後、7号車のB室で事件が発生しますので捜査を開始されたし”」
「探偵役?良かったね」
「ワクワクしちゃうよねー!」

少し狭い廊下をぞろぞろ歩いて移動する。
しかし、わざわざ事件が起こることを手紙で知らせてくれるとは手の込んだクイズである。

(名古屋まで距離があるし、わざわざそんなことしなくても派手に事件を起こせばいいのに)

子供たちの後をゆっくり歩く。
B室に着くと、コナンがドアをノックした。

「失礼しまー…」
「わ、バカ!入るな!!」

焦った男の声が上がると同時に、その匂いが凛桜の鼻を刺激した。

「―――?」

血糊の匂いだ。
中を覗こうと前に進むが、中から飛び出してきた人物に遮られ、それは叶わなかった。
しかも探偵団の子供たちが、それを追いかけて行ってしまったのである。

「あぁ……うーん」

仕方なく、凛桜も小走りに少年達を追ったのであった。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ