夕闇イデア

□T
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凛桜は人間ではない。
 ヒトを糧として喰らい、真に食物連鎖の頂点に立つ存在。
人に紛れ、人を喰う生き物。
――彼女は生粋の喰種である。

米花図書館に入ると、凛桜はすぐに新聞が置いてあるコーナーへ向かった。
理由は、過去の事件を調べるため。
ここに喰種が本当にいないのか、そもそもここはどこなのか。
自分が知っている場所は、この見知らぬ東京にあるのか。
最近のものから1年ほど昔の新聞を十部ほど選び、近くの机に広げる。
一通り目を通したが、『喰種』の字はひとつもない。
喰種による捕食事件はすぐに報道される。
喰種でなくとも、対喰種機関であるCCG(喰種対策局)のものでも良い。
だが、それもなかった。

「―――――」

少し思案し、凛桜は地方紙を探した。
今見ていたのは全国紙。
地方紙ならば、大きな捕食事件でなくとも取り沙汰されるだろう。
もし喰種がいれば、の話だが。

結果は、なかった。
少女は眉を寄せる。
新聞を戻し、蔵書検索コーナーへと向かった。ここに喰種はいないという事実を、確信するために。
タッチパネルを操作し、『喰種』と打ち込んだ。

検索結果 0件。

少女の口元に笑顔が浮かんだ。
検索画面に戻り、『グール』と打ち込む。

検索結果 50件

タイトルを見ていくが、作り話やお伽噺の本が多い。
どうやら、グールという名前の架空の怪物か何かがいるらしい。
どこにも、喰種の生態や捕食といった具体的な本はない。
本当に、喰種はいないようだ。
思わず笑い出したい衝動に駆られた。

どうも自分は、喰種が存在しない世界に来てしまったらしい。
ふっと息を吐き、後ろが並んでいることに気付く。
検索履歴に残った喰種とグールの二つの文字を消そうかと迷ったが、特に誰も見ないだろう、と気に留めなかった。
すぐ後ろに並んでいた少年たちに「ごめんね、お待たせ」と言い、その場を後にした。


***


少年探偵団は、米花図書館に来ていた。
「調べ物をしたい」と言ったコナンに、元太、光彦、歩美がついてきたのである。
ちなみに面倒だったのか、灰原哀は来なかった。
検索して場所を特定した方が早いだろうと、彼らは検索コーナーへ向かった。

「何の本を探すの?」
「絶版になった本だよ。古本屋に行ってもなかったから図書館ならあると思ってよ」

二つあるタッチパネルは両方埋まっていた。
片方に固まって並んだ彼らだが、前に立つ人物の格好に目を白黒させた。
青を基準にしたサテン生地に金色の細かい模様が描かれている。腰の部分を大きく露出させ、ぴったりと身体に沿うデザインの上衣と短めのスカートを組み合わせている。
所謂チャイナ服を着た人物がいたのである。

「わぁ……!」

綺麗な模様と生地に感動したのか、歩美が感嘆の声を小さく上げた。
その横で、コナンは見たことのないデザインのチャイナ服だなと観察していた。
よく見るチャイナ服は袖がなく、裾は長いものが多い。前に立つ人のものは袖は指先が見えないほど長く広がり、裾は逆に短い。
流行りのコスプレだろうか、と観察しているとその人が振り返った。

「ごめんね、お待たせ」

……白い人だ、と思った。
服装に目が奪われて気が付かなかったが、肌も髪も白い。
特に髪など、色が全て抜けてしまったような白さだった。
にこりと笑い、その人はやけに嬉しそうに去っていった。

(病気か何かか……?)

薬の副作用で色が抜けたのだろうか。
空いたパソコンを操作し、ふと気になって検索履歴を見てみる。
先程の少女は、一体何を調べていたのだろうか。

「これ、なんて読むんでしょう?」

横から覗き込んでいる光彦が首を傾げる。
グール、と表示された検索履歴の下にもうひとつ、喰種と。

「喰う、種?読みはグール……いや、無理矢理すぎるか……?」

“喰種”と検索しても出てこなかったから、その読みをカタカナで調べたとしたら筋が通る。

「コナンくん、グールってなに?」
「食べ物か?」

すかさず元太が反応する。
何でも食べ物に結びつける彼は先程から腹が減ったと主張していた。

「いや……、日本語では屍食鬼。人間の死体を食べる怪物のことだ」
「さっきの姉ちゃん、何でそんなもん調べてんだよ?」
「さあな。……検索結果は0件か」
「何だったんでしょう?」
「さっきの人も読み方が分からなくて検索したっていう可能性もあるが……」

顎に手を当て、考え込んだコナンに歩美が「じゃあ!」と目を輝かせた。

「お姉さんを追いかけようよ!直接聞けば分かるかも!」

単純だが確実な方法に、少年達は即座に頷いた。

「そうだな。んじゃ行こうぜ!」
「おー!」

小声の掛け声と共に、少年探偵団は小走りで少女の後を追いかけたのであった。




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