夕闇イデア

□IV
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「……なるほどね」

話し終えたコナンは一気にジュースを飲み干した。

「“向こうにいたい”というより“戻ってはいけない”と思っている感じかな」
「……そう、だね」

何度も愛する者を失いながら生き長らえ、死にきれず。
子供たちが殺された日。
弟を迎えに行かなかった日。

「凛桜さんは、戻ってくるよ」

肘を着き、カウンター越しにコナンを見る安室は笑っている。
至極簡単に言ってのける。少年はどこからその自信が来るのかと呆れながらも、男に笑み返した。

――その時。

「――――――――!!」

にわかに、店の外が騒がしくなった。
カウンターの椅子からコナンが飛び降り、扉へ向かう。
その後を安室が追った。

「――さん……!!」

歩美の声だ。
扉を開けると、歩美は誰かにしがみついていた。

「凛桜さん!凛桜さぁん……!」

白髪が揺れた。
歩美を壊れ物を扱うかのような手つきでそっと抱きしめ、そのひとはくしゃりと顔を歪ませた。

「ごめんね」

涙に濡れた声が耳朶を打つ。
膝を着き、前よりも少し大人びた彼女が顔を上げる。
透き通った目に、嗚呼、と誰もが悟った。

――帰ってきた。
同胞や敵、そして世界。幾多の別れを告げ、今度こそ。
少女は本当の意味でコナン達の仲間になったのだ、と。
迷いながらも、こちらを選んだのだと。

「――おかえり、凛桜さん」

傷つき、狂いながらも折れなかった瞳が振り返る。
はにかみながらも、凛桜は満面の笑みを浮かべた。



「……ただいま!」



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