夕闇イデア

□V
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安室が消火栓に仕掛けられている起爆装置の解体にかかった。
警察学校時代の友人に教えられた、と言っていたので腕は確かなのだろう。
だがその友人は、爆弾を解体している時に命を落とした。
彼も多くを失っているのだと、凛桜は改めて思い直した。
赤井は背負っていたライフルを手に、何やらチェックをしている。

「これを使え」

赤井がライフルの入っていた鞄を滑らせ、安室に渡した。

「そこに工具が入っている。解体は任せたぞ」
「赤井さんは?」
「爆弾があったということは、奴らは必ずこの観覧車で仕掛けてくる。そして、ここにある爆弾の被害に遭わず、キュラソーの奪還を実行できる唯一のルート……」
「空から……!」

倉庫でジンが言っていた“アレ”とは、空から仕掛けられる何かだったのだろう。
どこから飛ばしてくるか、それにどれだけ時間がかかるかは分からない。
だが、キュラソーはもう観覧車に乗っている。
ということは、組織はもうまもなく仕掛けてくるだろう。

「俺は元の場所に戻り、時間を稼ぐ。何としても、爆弾を解除してくれ」

言うだけ言って、赤井は去って行った。

「簡単に言ってくれる……!」

安室が苦々しい口調で言う。
コナンがライフルケースに入っている工具を取り出し、安室に渡した。

「安室さん、これを」
「ありがとう。あとはこれの解体に、どれだけ時間をもらえるかだが……」
「うーん…………凛桜さん!」
「なに?」

何かを考え込んだコナンが、凛桜を勢いよく振り返った。

「拳銃や刃物では、傷つかないんだよね!?」
「うん?うん」
「爆弾は?」
「え、試したことないけど。もしかして爆発した時のこと考えてる?」

凛桜は目を白黒させた。
彼の考えはたまに突飛である。

「凛桜さんなら、安全な場所に持って行けるかなと……」
「いざとなったら、……奥の手使うけど?」

少し迷い、凛桜はそう言った。
今は非常時だ。
出し惜しみしている時ではない。

「奥の手?」
「……まあ、任せて。ここは大丈夫だから」
「じゃあ、任せた!」

言い終わるが早いか、彼はどこかへ走って行ってしまった。

「どうした、コナン君!?」
「ノックリストを守らないと!」

解体を始めていた安室が顔を上げた。
その時にはもう彼の姿は見えない。

「ったく、どいつもこいつも……」
「それを言いたいのは私なんですけど?」
「……すみませんでした」

凛桜の厳しい言葉に、安室が首を竦める。
2人の間に割って入った彼女はやはり、尋常ではない身体能力を持っている。
本気で殴りかかったというのに、けろりとしているところからして相当場馴れしている。

「……急いだ方がいい。さっきからずっとローター音が聞こえる。近くにいるよ」

配線をひとつひとつ切りながら、安室は凛桜に驚く。
彼女の耳の良さは、常人のそれではない。
人間ではないと言ったその意味の片鱗がこれだろうか。
考えながらも、安室は手を止めなかった。
安室が慎重に作業をし、凛桜がそれを後ろから眺めていた、その時。
バチンッという音がし、観覧車の全ての灯りが消えた。

「なっ――」
「仕掛けてきたね。夜目、きく?」

携帯を取り出し、聞きながら凛桜は安室に渡した。
画面の明かりは最大にしている。

「ありがとうございます、凛桜さん」
「うん。上空から、何か降りてくる。コナン君は――上!?」

焦った声に、安室は凛桜を見た。
彼女は上を見上げて息を呑んでいる。

「安室さん、それもう解体できる!?」
「もうすぐにでも!」
「じゃあ私離れるから!」

脇目も振らず、凛桜は駆け出した。
階段まで行っている暇はない。
勢いをつけて飛び上がり、服の裾をまくった。
赫子を伸ばし、凛桜は一気に頂点近くまで上り詰めた。



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