夕闇イデア

□U
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「大丈夫、お2人さん?」

倉庫の中に入ると、驚いた顔が2つ見えた。
ずかずか遠慮なく踏み込み、凛桜はキールに近付いた。

「凛桜さん、なぜここに!」
「赤井さんに協力してくれって頼まれて」
「高速道路の時もいましたよね!?あの男、どういうつもりだ!」

キールの手錠を外し、腕の応急処置だけ施す。
長らく怪我の処置などしていなかったので、合っているか曖昧である。
そして自分の携帯を安室に投げて渡すと、彼は何か言いたそうな顔をした。

「緊急時だ、貸してあげる。それで仲間にかけなよ」

キールの傷口にハンカチを包帯代わりに巻き、凛桜はこんなものかと頷いた。

「FBIが救出に来るそうだから、ちゃんとした治療はそっちで受けてね」
「あなた――、白髪の、狙われてた子?」

まだ唖然とした表情のまま、キールがぽかんと問いかけた。
どこかに電話をかけている安室がちらりと凛桜を見る。
キールに笑いかけ、凛桜は立ち上がった。

「私は凛桜。そうだなぁ、今は赤井さんの協力者ってとこかな?」

倉庫の出口に向かい、安室から携帯を受け取ると凛桜は外に出た。
次いで出てきた安室を見上げ、にっと唇をつり上げた。

「行くんでしょ?水族館」
「――ええ」
「じゃあ、行こうか。安静にね、お姉さん。人間はなかなか治らないんだから」

キールを残し、安室と凛桜は同じ方向へ走り出した。
行き先は、水族館。
目印は輝く巨大観覧車だ。

「さすが、体力もおありのようだ」
「しゃべってないで黙って走ったら?拘束されてたんだから」

どこまでも口数の多い男である。
沈黙していたのは凛桜を拉致した時の車内だけではないだろうか。

「あなたはなぜ、あの男に協力を?」
「頼まれたからっていうのは理由にならないの?」
「生憎と、僕は赤井秀一のことが殺してやりたいほど憎くてですね!」
「へー。それで助けられたことが腹立たしいと?」

面倒くさい男だ。
自分のことは棚に上げて、凛桜は呆れた。
凛桜も、自分が憎んでいるCCGに助けられでもすれば、情けなさで憤死したくなるだろう。
まあ、そんな状況はまず有り得ないのだが。

「何があったか知らないけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないって分かってる?高速道路でも喧嘩ぶちかましながらカーチェイスしてたし!私乗ってたの、絶対見えてなかったでしょ!」

昨晩の恨みを存分に吐き出せば、安室はうっと詰まった。
赤井が絡むと本当にそのことに囚われすぎる男だ。
今後何かあれば困った事態になりかねない。

「す、すみません……」
「すみませんで済んだら警察いらないでしょ!……って安室さん警察だった。世も末だ」

半ばヤケになって説教した凛桜である。
そうこうしているうちに、5色の光に照らされた観覧車に近付いた。
もう水族館の敷地に入っているので、狙いは目と鼻の先だ。
問題はどうやって内部に入るか、だった。



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