夕闇イデア

□T
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バイトが終わり、一度も着信がなかったことに凛桜はほっとしていた。
だが工藤邸に戻り、携帯を開いてみるとメールが入っていた。
メールの通知は切っていたので急いで開く。
差出人はコナンだった。

「――警察庁に侵入した女が盗んだのはノックリスト。世界各国のスパイの情報が載っているもの。今は警察病院にいる……?」

ちょうどその時、凛桜の携帯が震えた。
着信だ。

「――赤井さん」
『手を借りたい。今どこだ?』
「家だよ」
『分かった。待っていろ』

ポケットに携帯を突っ込み、凛桜は即座に踵を返した。
玄関を出て施錠し、門の前で待機する。
コナンからのメールの続きを読みながら待っていると、しばらくして赤井の車が猛スピードで凛桜の前にも止まった。
助手席に乗り込むと、ベルトをする暇もなく車が出る。

「状況は把握しているな?」
「コナン君から、大体は。安室さんが危ないんでしょ?」

警察庁のノックリストが盗まれたということは当然、リストには彼の名前も載っている。
自分で自分の首を絞めた日本の警察に凛桜は呆れた。
冷血非道なCCGと同じ国家組織とは思えないほどの失態だ。

「彼は組織に捕まった」
「場所は分かってるの?」
「ああ。だが時間が無い」

車を飛ばす赤井を横目に、凛桜はぎゅっと携帯を握りしめた。
あのカーチェイスから始まり、随分と大事になったものだ。
スパイ情報の漏洩など、とんでもないことだ。

「で、何すればいいの?」
「俺が奴らの視界を奪って彼を逃がす。その後の奴らの動向を聞いておいてくれ」
「なるほどね、了解。私の耳が役に立ってるみたいだね」
「盗聴器いらずで安心だからな。その上、気配も察知できるからまずばれないだろう?」
「古典的な方法が一番早道だったりするよね」

車は人気のない場所に止まった。
赤井がライフルを取り出し、少し離れた倉庫を指した。

「あそこだ。何か聞こえるか?」
「安室さんの声と、知らない男の声。キュラソーが伝えてきたノックリストにお前達の名前があったとかなんとか」
「ジンだな。行くぞ」

早足で近付き、気配を消す。
どうやら、ぎりぎりセーフでの到着だったようだ。
少し開かれていた窓から中を伺うと、柱に縛られた安室ともう1人、凛桜の知らない女が見えた。

「あれがキールだ」
「ああ、CIAの?」

極限まで声を落として会話をする。
縛られている2人の視線を追うと、長髪の男がいた。
全身を黒い服で覆い、帽子までかぶっている。
コナンが「黒ずくめの組織」だと言う理由が分かり、凛桜はしげしげと男――ジンを見た。
今まで明るい服装の安室とベルモットしか知らなかったので、逆に新鮮なのである。
倉庫にはベルモットともう1人、男がいた。
ベルモットも男も、ジンのように黒い服に身を包んでいる。

「……あっちの男は?」
「ウォッカ。ジンの腹心だ」

中の会話を聞き取りながら、凛桜は赤井に尋ねた。

「僕達を暗殺せず拉致したのは、そのキュラソーとやらの情報が完璧ではなかったから。違いますか?」

箱に座り、煙草をふかしているジンがはん、と鼻で笑った。

「さすがだな、バーボン」
「ノックリストを盗んだまでは良かったけど警察に見つかり、逃げる途中で事故を起こした」
「挙句、記憶喪失ときたもんだ」

ジン、ベルモット、ウォッカは三方向に散っている。
捕らわれている2人が妙な真似をしないようにという考えの元だろう。
キールが手錠をガチャガチャ言わせながら、反論した。

「じゃあ、キュラソーを奪還してノックリストを手に入れるべきじゃないの、ジン!誰がノックなのか、それを確認してからでも遅くはないはずよ」
「……確かにな」

ジンが懐に手を入れた。

「――だが」

銃を取り出し、立ち上がる。

「ジン!?」
「アニキ!」

ベルモットとウォッカも驚いたようにジンを見た。

「疑わしきは罰する。それが俺のやり方だ」

凛桜と赤井は同時にぐっと眉を寄せた。
まだ、仕掛けられない。
安室もキールも、手錠を外せていない。

「さあ、裏切り者の裁きの時間だ」

ジンが煙草を地面に落とし、靴で踏み消した。
銃を横に構え、彼はニヤリと笑った。



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