夕闇イデア
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銃を突きつけられた凛桜は、大きな倉庫に連れて行かれた。
中に入ると、そこには集団が待ち構えていた。
数はおよそ50人といったところだろう。
半分ほどは普通の服装をし、その後ろに控えるように白衣の集団がいる。
凛桜の背後で、扉が閉められた。
見渡してみると、全員が男だった。
私服の男達は殺気立っており、戦闘慣れしていることが伺える。それに対し、白衣の集団は皆静かに佇んでいるだけだ。
「それで、何の用かな」
向こうから何も動きがないので、凛桜から投げかけた。
しかし、返答はなかった。
その代わりに一言、奥から声だけが響いた。
「やれ。生きていれば問題ない」
素早い動きで、私服の男達が凛桜を取り囲んだ。
全員が銃を構え、じりじりと迫ってくる。
凛桜は呆れてため息を吐いた。
「どうやら、本物の馬鹿しかいないみたいだね」
「――動くな」
「撃ちたいなら撃てば?最初に言っておくけど、何をしても無駄だよ」
軽い足取りで歩を進めると、凛桜の頬を銃弾がかすめた。
しかし傷ひとつつかず、少女の歩みも止まらない。
「今の、わざと?それとも下手くそ?」
撃った男に近寄り、くすくす笑った。
ちら、と天井を見る。
カメラがひとつ、凛桜を見下ろしていた。
鞄を床に落とし、マスクをつける。
――次の瞬間、凛桜に向かって銃が一斉に放たれた。
「うわ」
あまり驚いた風でもなく、凛桜は声を上げる。
そのまま跳躍すると、少女は天井の鉄骨を掴んだ。
「な!?」
「どこへ――」
狼狽える男たちを見下ろし、軽く身体を振って手を離す。
そしてそのまま、天井のカメラごと数人を薙ぎ払った。
「ふは、久しぶりの赫子」
小柄な少女の腰からは、八つに別れた何かが伸びていた。
鱗のような模様をしており、うねうねと動いている。
――喰種の捕食器官、赫子。
体内にあるRc細胞を噴出させた液状の筋肉。
赫子は触手のように自在に動き、男達に襲い掛かった。
凛桜の両目は赫眼になり、煌々と男達を見据えていた。
「ひ――怯むな!前は制圧できたんだ!やれ!」
「……前?」
再び銃が放たれる。
今度はそれを赫子で防ぎ、凛桜はゆっくりと歩いた。
「ねえ、前って何?お話しようよ。殺し合うのはその後でもいいじゃん」
「――実験体と話すことなど何も無い」
「あっは、いま返事したじゃん。会話成り立っちゃったね」
くすくす、くすくす喰種がわらう。
敵と見なした相手を、彼女は嘲笑う。
揚げ足を取り、相手の平静を奪い、それを見て楽しみながら殺す。
「私ね、基本的に人間のこと嫌いだと思ってたんだけどさ。最近、そうでもないなって思ったよ」
銃弾を避けながら、8本の赫子で武装集団を確実に殺していく。
凛桜は赫子を何本にも分裂させ、それを縦横無尽に使う。
敵が大勢ならば撹乱でき、少数でも人間の目には留まらぬ速さのそれを避けることはできない。
いつもは時間をかけて楽しむので、赫子も倍ほどに分ける。
だが、今回は情報を掴まなければならない。
ある程度まで武装集団を倒すと、凛桜は周囲に指示を出しているリーダーらしき人物を赫子で自分の方へ引き寄せた。
足首に巻き付け、床に倒して引きずったのである。
「ぎゃああああああああ!!」
恐怖にかられた男はめちゃくちゃに銃を振り回し、乱射した。
当たりどころが悪かったのか、数人が倒れた。
「あーあ。無駄に味方傷つけてどうすんの」
凛桜は、血一つ流していない。
全て赫子を使って応戦しているので、返り血も浴びていなかった。
「ヒッ……ば、化け物―――」
「分かってて向かってきたんじゃないの?やだなぁ、そんなこと言われたらやる気失せるんだけど」
凛桜は足首に巻き付けたままの赫子を持ち上げ、男を宙吊りにした。
男はばたばたと必死になって暴れるが、赫子はびくともしない。
「さあ、お話しよう?」
人質を取られて身動きが取れない彼らを見て、白い悪魔はにっこりと笑った。
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